■森巣博「無境界の人」集英社文庫 20030828
「ナショナリズムの克服」を読んで、彼の本を読もうと思って買った。
豪州を拠点に博打で暮らしている。無境界に生きている自由人だ。下品な表現を自在に使い、剛胆に見えて緻密で、少数派への視点はやさしい。
「民族」とか「日本人らしさ」とか「日本人論」とかのうさんくささをバッサバッサと斬る。渡部昇一らのうさんくささを白日のもとにさらしてくれて心地よい。
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▽八紘一宇とは日本型中華思想である。中華が蛮を救済し、指導してやる。 「いやだ、いやだ、という相手をむりやり軍事力で押さえ込み、気持ちようしたる、気持ちようしたる、といいつつ、救済すると申すのだ」「わしが強姦するのは、あんたらを救済・解放するためじゃけん」という論理。
▽日本政府は新憲法国会上程時の内閣法制局見解「国民という事実上の存在を、法律で規定することは、無理であり、不適当」
▽明治以降の日本型中華思想は、日本と西欧という二極の中心を有していたのだが、これが高度成長と相対的西欧の没落により「日本だけ中華思想」になった。日本人論が花盛り。これは、韓国やマレーシア、台湾も同じ。
▽渡部昇一「日はまた昇る」
▽実は「われわれ日本人」という強烈な思い込みをもつ人たちが、多くの場合、「ガイジン」恐怖症に悩んだ外国生活体験者であるのはよく知られている。
「日本文化論」「日本人論」は、独自性や差異を強者の側から強調する方式。民族的偏見を助長する目的で構想されたものだ。
酒井直樹「国民的文化の差異の現象学は存在しえない」
■森巣博「無境界家族」集英社文庫 200309
「したいことだけをしなさい。やりたくないことはやらなくてもよろしい」。これが唯一の教育方針だという。でもそれをやりきるのは非常に大変なのだ。
妻は著名な学者、息子は不登校だったが、中学生の年代で一流大学に入り、アメリカで大金持ちになってしまった天才児。本人は博打打ち。
タブーがない、というか、ぶっとんでいる、というか、自由の極みというか、そういう家族の日々を描きながら、「国」という枠に閉じこもりたがる日本的ナショナリズムをわかりやすい言葉で批判している。
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▽日本の伝統とされる「万歳」は、1889年に突然発明された。明治政府は「天皇というのはお稲荷さんより偉い」と喧伝してまわったが効果がない。「国旗だも掲げず冷淡に看過し」(106ページ)「国民」創造に腐心していた明治政府は祝声の制定を試みる。帝国大教授の外山正一の「バンザイ」案が教授会で承認された。伝統なんて、強者によって明白に捏造されたものだ。
▽本能と情報、によって投資をおこなう者たちは「過去の遺物」。日本では未だに主役をはっている。欧米では、純粋数学を駆使する「クアンツ」が資本市場を動かしている。
▽オーストラリアのキーティング首相は、在任中、国歌を歌わなかった。歌をうたわない理由は「歌詞を知らないんだ」
▽オーストラリアの連邦議会の入館者のドレスコードは、少なくとも「ゴム草履とTシャツ」をつけてくださいというもの。2000年2月に下半身規定が制定され「ショーツ」が追加された。Tシャツとゴム草履だけの美女がお尻丸出しで入館を試みたということだった。
▽梅棹忠夫「文明の生態史観」と梅原猛「日本文化論」への批判(p210)批判
▽〓スーザン・ストレンジ「カジノ資本主義」
■マイケル・ムーア「アホでマヌケなアメリカ白人」柏書房 20030920
ブッシュがゴアに勝った前回の大統領選の話から説き起こす。
ブッシュ大統領の弟ジェフ・ブッシュ・フロリダ州知事の差し金で、同州の投票者名簿から、元犯罪人と疑わしい人間を削除した。これによって、全黒人の31%の投票権が剥奪された。犯罪を犯していない黒人の権利も、「似た名前」ということで剥奪した。ブッシュが州知事をつとめたテキサス州からのニセの犯罪人リストを使って、さらに8000人の権利を剥奪した。マスコミをにぎわせた500とか600票どころの問題ではない。何千という黒人とヒスパニックが投票できていたら確実にブッシュは負けていた。
これほど悪臭が放たれているというのに、メディアは完全に無視した。メスを入れたのはイギリスのBBCだった。
最高裁判所は、票をすべて数え直してゴアが有利になったら、ブッシュの統治力が失われてしまう、という論理で、数え直しを認めなかった。
ブッシュの選挙を応援した人たち、政府高官になった人たちの人物紹介もおもしろい。エンロンや石油メジャー、自動車業界……。選挙に莫大なカネを献金した業界のリーダーや、株主たちが顔を並べている。日本では少なくとも「政治は中立」という建前がある。そうした「建前」の片鱗さえもなく、露骨に堂々と利益代表と化していることがよくわかる。実際、それぞれの業界が求める通りの政策を打ち出していった。
ブッシュの個人的な資質の問題も暴露する。読解力は小学生並み。アル中で飲酒運転で逮捕された。薬物濫用でも逮捕。3回の逮捕歴がある。……という自らの経験があるのに、薬物乱用で有罪判決を受けた経歴がある学生から奨学金を剥奪してしまった。
日本のマスコミでやたらと賞賛される「規制緩和」の行き着く姿もすさまじい。
例えばアメリカン航空のパイロットは「仲間が生活保護課へ食糧キップをもらいにいったよ。本部は『パイロットは生活保護をもらうな』だとさ。もらったヤツはくびだってんだ」と言う。
国家予算を徹底して削られた教育現場にはあらゆる種類の民間資本が入り込む(p140から)。ソフトドリンクは独占契約し、学校の「コークの日」にペプシのシャツを着ていった生徒が停学1日の処分をくらった。
教育予算を削減した当の政治家たちが、米国の子の学力がドイツや日本に劣ることにむかっ腹をたて、教師に「説明責任」を求め、資格試験をしろといい、子どもたちには試験を何度も受けさせろといいはじめた。「新しい教科書」の連中と同じ感覚だ。
自作の映画のなかに出てくる、うさぎを殴り殺すシーンは「かわいそう!」と言われ、「成人指定」とされたのに、その2分後に出てくる黒人を射殺するシーンは何も言われない(動物愛護団体のよう)。そういう倒錯した価値観が蔓延しつつあるのは、日本も同じだろう。
ブッシュを斬りつけた返す刀で、民主党のクリントンを切る。在任中、死刑の適用を増やし、ゲイ同士の結婚を違法とする法案に署名し、1400万人中1000万人の生活保護を打ち切り……。表面はソフトだが、中身はブッシュと同じ。
彼が希望をつなぐのは、民主党にも共和党にも愛想を尽かした人々がラルフ・ネーダーや緑の党の運動に共感を覚えつつあることだという。バーモント州唯一の下院議員は無所属で、ネーダーの得票は前回を5割も上回ったと。
ムーアのHP www.michaelmoore.com
■佐野眞一「人を覗にいく」ちくま文庫 20030918
紀伊国屋の社長、映画人、古本屋、作家、エロビデオ監督、老人ホームの園長、城南電気の社長、ロヂャースの社長……。さまざまな分野で活躍する人々を「デッサン」するように描く。
関係者をぬりつぶし、過去をしらべ、小学校の学籍簿にもあたり、転居した場所をたどり……。膨大な取材をもとに、バッサリと斬る。「書かんでくださいね」などと言いながらしゃべったこともズバリを書いてしまう。対象との距離感が絶妙だ。
シャドーボクシングのように、物書きは訓練を怠ってはならない。動体視力を養うために、こうした人物スケッチが最適だという。僕から見たら、スケッチというより、完成した絵画に見えてしまうけど。
▽北杜夫 躁鬱。躁のときは株で破産、博打で大負け。番組では1人でしゃべりつづけ、突然浪曲をうなり、暴言をはきまくる。
▽古本厳窟王「谷口雅男」 小倉にある文庫本専門の古本屋。「ふるほん文庫やさん」。本をもってくる「せどり」部隊は200人。彼らは本の対価を現金では求めず自分が探している本で求める。
▽網野善彦 「日本とは何か」
▽北海道の老人ホームの畑宏明〓園長。定年後はここに入園する(1990年)。
■和田秀樹「大人のための勉強法」PHP新書 20030925
久し振りに読んだノウハウ本。当たり前のことが書いてあるようで、あ、そうかあ、と思えるところがいくつかあった。読んでもなかなか実行できないんだけどね。
以下抜粋。
▽勉強法
わかるための努力や費用を惜しまない。
試験のように、その場その場で理解状態の確認を。一番てっとり早いのは、人に教えること。
前夜学んだことを翌朝に復習。1週間に学んだことを週末に復習。
思いついたことを何でもメモする。
▽自分の思考を知る
自動思考を矯正することで、感情状態も対人行動もかなり適応的になる。そのためには、自分の感情状態とそのときに自分の考えたことを紙に書いて記録するのが効果的。自分の思考パターンがいかに感情に左右されるか知ることができる。自動思考が浮かんだ瞬間にすぐに書き留めて、それが起きる可能性を考える。
推論は自己を守りたがる傾向がある。
▽読書と文章
必要な個所だけのつまみ食い読書。速読するより、一部分だけ熟読した方が頭に入る。
感想を書き込んだ付箋をはる。
型にはまった文章を書くことに慣れる。最初に問題提起(WHAT)、次に意見を述べ(YES,NO)、その次に意見の補強説明で、自分の知識や参考文献からの引用を載せる。最後に、明快で完結な結論。
▽英語
カンで読んだ部分をメモしておく習慣を。フレーズ単位、文章単位で面白いと思った表現をメモして覚える。
▽スランプ時の勉強
新規の情報入力には適さない。復習によって「できる」感覚が出れば抑鬱気分が改善される。一方、うつのときは、自分の欠点がよく目に付くので、自分が覚えていないところを見つける可能性が高くなる。
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