■広瀬之宏「答えは一つとは限らない」遊タイム出版 20040202
デザイナーの筆者による神戸女学院での授業を1冊の本にした。
積み木のような木片を1つ見せて「これを使って何を作れますか?」。まな板やら家やら本棚やらを並べるだけでは、ダメ。
一辺10センチの四角の中に、直径20センチの円を描け。「無理だよー」では、ダメ。
星条旗をふるブッシュ大統領の写真。旗を、白旗や日の丸に持ち替えたらどんな印象になる?
自分の精神が、既成観念や思いこみでいかにがんじがらめになっているか、ほんのちょっと画像や言葉に手を入れるだけで、いかに世論が操作されてしまうかがよくわかる。
氾濫する情報の裏にある真実をどうやってつかむか、既成観念にとらわれない自由な発想で社会とかかわるにはどうしたらいいか……を教えている。
最終章の「大学とわたし」と題した学生たちの作文が圧巻だった。
講義を通じて自分自身の姿を見つめ直すなかで、「正直であることって?」「まじめであることって?」「生きがいって?」と自問してつづる(表現する)。表現することで自問する。
「自分」を表現することは思いのほか難しい。彼女らの作文を読んでいると、人生論や社会問題、文学について徹夜で語り合っていた学生時代を思い出す。当時の日記を読み返すと、1日に2ページも3ページも書いている。今では、そんな量を書きつづけるだけの内容が思い浮かばない。年齢だけの問題ではない。「表現すべき自分」がやせ細っていることに気づかされる。
「正直であることって大切なの?」という質問には、今の僕ならば「だれに対する、だれのための正直なの?」と問うだろう。魯迅の影響もあるけど、「正直者」であることがそれほど価値があることとは思えない。「正直」や「純朴」を無批判にあがめる相田みつをのような人間には軽蔑すら覚える。
「仲間って大切ですか?」という問いも「大切です」とは一概にいえない。「仲間」の定義をまず尋ねるだろう。もたれあいだけの仲間ならば有害でしかないからだ。「じゃあ、孤独こそが大事なの?」と尋ねられたら、そういうわけでもない。
そういうことを自問できるようになったことは、「正しさ」の論証に夢中だった学生時代よりは多少は僕も成長したんだな、と思った。
■手束妙絹「人生は路上にあり−−お大師さまへの道」 20040114
{本文}
■「ラテン音楽パラダイス」 {日付}
{本文}
■畠山清行「秘録陸軍中野学校」新潮文庫 20040218
知人のMさんが「中野学校にいたことがある」ともらしたことがある。中野学校って、スパイの集まりで、謀略やら暗殺やらをやるところ、というイメージはあったけど、具体的な知識はなかった。
Mさんの歩みを知りたいと思って読んでみた。
あらゆる権威を客観視していているところ、外国人でもだれでもすぐに仲良くなってしまうところ、人や生物の生命に強い愛情をもっているところ、「中野学校は単なるスパイ養成学校ではなく、世界人類の平和を確立する秘密戦士を養成する」と教えられたというところ……。Mさんの体験とこの本の記述がだぶってみえた。
「スパイ」はイギリスでは名誉であり紳士の職であるという。中野学校も、そういうスパイを育てた。だから、天皇でさえも相対化し、「神」などとはだれも信じなかった。「天皇もわれわれと同じ人間だということを知っておけ」と教育された。
Mさんはあまり語らないけど、「戦争中、一度も鉄砲を撃ったことがないのが誇りです」といっていた。中国からタイ、ビルマへと8年間も兵隊としてすごして、そんなことが可能なのだろうか。近衛兵もつとめた。中国ではスパイのようなこともしたことがある。そんな断片情報をつなぎあわせていくと、中野学校の卒業生である可能性は高いのではないかと思った。
■金子勝+テリー伊藤「入門バクロ経済学」朝日新聞社 20040222
▽米国は好景気と言われるが、1人あたりの実質所得は、90年代を通じてほとんど変わってない。夫婦2人で働いて、夫1人だけが働いていたころの生活水準を維持するのがやっとという家庭も多い。
▽アメリカの会計制度は世界1透明だなんて言われていたのに、エンロンが会計粉飾したのがわかり株価が大暴落。01年のマイカル破綻でマイカル社債が、02年のアルゼンチン危機ではアルゼンチン国債が紙くずになった。すべて「自己責任」なんでしょうか?
▽世界中にドルを環流させないとアメリカがもたない体質ができたため、あらゆる国にアメリカ基準を押しつけざるをえなくなった。金融自由化、BIS規制、国際会計基準など。
▽不良債権を抱え込む金食い虫の大銀行が生き残る一方で、地元密着の信用組合とか信用金庫がどんどんつぶされる。宇都宮信用金庫の債務超過は24億円だったのに、ダイエーに対する債権放棄は5200億円にものぼった。
つぶす企業、残す企業の線引きはどこにあるのか。ものすごい退職金をもらってやめていく経営者がのさばる大銀行ばかりが公的資金で救済され、中小の金融機関は無慈悲に破綻に追い込まれる。
▽竹中・中谷が参加した小渕政権の「経済戦略会議」(99年)で「銀行経営者の責任は3年間棚上げする」と決めた。バブルの時期、いろんな経済犯罪、粉飾決算をやっていた。その時効が5年間だから、要するに銀行経営者の責任を免罪したわけ。
この時に責任をとらせ、公的資金で処理すれば、こんなに傷が広がることもなかった。
▽「道路特別会計」があること、「道路整備5カ年計画」という長期計画が国会審議なしで決まっていること。この2つと道路族議員がいるかぎり、道路公団を民営化しても、建設はつづきますよ。
▽レーガン改革、サッチャー改革 どちらも強烈なデフレ効果をもつ政策。今やったら、逆効果なのは明らか。90年代半ばごろは「規制緩和で価格破壊を」と言ってたのに、いつの間にか「規制緩和でデフレ対策を」に正反対になっている。
▽サッチャーによって教育と医療が荒廃した。経済がよくなったのは、1つはフォークランド紛争。戦争というのは究極の内需拡大策。レーガン減税でアメリカは財政赤字を膨大に増やして消費を刺激した。が、山のような財政赤字が残された。人々は手持ちの現金が増えたから、借金しても消費するようになった。輸入が増えるから貿易収支が大赤字。財政赤字と貿易赤字が大問題になった。90年代に復活したのは、湾岸戦争があったから。戦争を口実にブッシュが増税し、その後をついだクリントンが最高税率をちょっと元に戻した。そしたら景気がよくなった。
息子ブッシュもアフガン戦争をやっている。ニューライトの人たちは、「市場にまかせる」といってどんどん国の仕事を減らす。民営化、規制緩和、金融自由化……。インフレ収束には役立つが、それ以外は軒並み失敗。現在で「小さな政府」をやろうとするわけだから、景気が悪くなっても金融政策以外に打つ手がない。公然と歳出を増やせる戦争に頼る。
▽ドルは基軸通貨で、アメリカ以外の国の間の貿易決済にも使われている。金融自由化で、ドルが株式市場や国際金融市場に流れ込むようにしてみんなに使われるようにしておけば、財政赤字や貿易赤字がひどくなっても、通貨の価値が極端に下がらないから、好きなだけじゃぶじゃぶ刷って支払いにあてられる。……世界が一番危惧してるのが、日本が財政赤字がひどくなり、保有している米国債を売り出すこと。そうなると米国債が暴落、ドルも下落して世界恐慌が始まる……。
▽BIS規制。本業のもうけが変わらなくても、手持ちの株が下がれば、どんどん自己資本が目減りする。本業も、不良債権で利益があがらない。となると、BIS規制達成のためには「貸し渋り」「貸しはがし」で分母となる貸し出しを抑制してしまう。量的緩和でいくら手元に金があっても、BIS規制があるかぎり、貸し出しもしたくない。それで、貸し倒れリスクゼロの国債をじゃかじゃか買う。国債の利回りが低いから、預金金利もうんと低くしないと利益がでない、という悪循環。
▽ペイオフ 預金する側の「自己責任」は、金融機関側の情報開示がちゃんとしてないと意味がない。マイカルも青木建設も佐藤工業も、それまで安全と思われていたのに突然倒産した。銀行の不良債権ごまかしを放置しておいて、こんな形でペイオフ凍結解除するなんてとんでもない。
主流派の学者は、預金保険というセーフティーネットがあったからムチャな経営になったというけど、めちゃくちゃな経営が先にあって、それを天下りや接待で癒着した監督機関が見逃した、というのが本質。
▽コーポレートガバナンス 元は「会社は株主のもの」という意味だったのが、いつの間にか、「株主に株を売られて会社がつぶれないようにすること」になってしまった。そのためには、現金収支(キャッシュフロー)を常に黒字化しておかなければならない。……キャッシュフロー経営だと、エンロンとかGEとか、金融ばかりで本業がなんだかわからない会社ほど有利になる。モノづくりは設備投資が必要だし、技術を持った働き手をある程度の期間をかけて教育する必要がある。だからキャッシュフロー経営では不利になる。
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