普通のモノは、長年もっていれば古びてきたり、保管費用がかかったりするのに、通貨は長期間もっているほど利子がついてもうかる。
通貨は、本来はモノやサービスの交換手段でしかなかったのに、なぜそんな特権的な機能をもつのか。おかしいのではないか、という疑問が全編にわたって提示されている。
利子が得られるからためる。ためこむから流通が滞り、社会全体の購買力が減り、不況へと落ちていく。「利子」は商品やサービスの価格に付加されるから、けっきょく末端の消費者が損をする。利子で生活ができる金持ちと、微々たる貯金しかできない庶民のあいだの不平等を生みだすことになる。
それを解決するために「地域通貨」が登場する。他のモノと同じように、時間がたつほど価値が減る、あるいは貯蓄しても価値が増えない通貨だ。
「庭掃除」とか「家具作り」とか、会員が自分の提供できるモノやサービスを登録し、その報酬を地域通貨で受け取る。会員の商店やホテルでは、全部または一部を地域通貨で払える。
また、1カ月ごとに1%の額のクーポンを買って裏面に貼らなければ使えない、といったシステムを導入しているから、できるだけ早く使おうとする。だから通常の通貨の数倍というスピードで流通することになる。
実際、1929年の大恐慌の時に地域通貨を導入して、雇用増と活性化に成功した町もある。
地域に限定した通貨だから、金・資本がコミュニティの外部に流出しない。大規模店の進出で危機に立つ商店街などでも効果をあげる可能性もある。多国籍企業の横暴にも対抗する手段となりうるだろう。
さらには個人が自分の思わぬ能力を開発することにつながるケースもある。交換リング(地域通貨)に加わることで、自ら提供できるサービスやモノを考える。普通のオカネの世界では仕事とみなされなかったささやかなサービスや品物が新たな仕事として浮上する可能性もある。
感想
カネの考え方を180度かえるおもしろい本だった。 ただ、年間3万%というハイパーインフレをニカラグアで経験した身としては、「減価する通貨」を手放しでは喜べない。貯蓄しても仕方ないから、手には入って即使う。ということは人生設計じたいが刹那的になり、将来を見据えた貯蓄ということさえできなくなる。
地域通貨はあくまで「地域」か同志的コミュニティに限定するから有効であり、主役ではなく、普通の通貨による社会の矛盾を補完的になだめると考えた方がいいのだろう。
(2000/3/16)
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