午前10時50分、スカイラインを9キロほどのぼった金山谷に車をとめた。下界は35度の猛暑だが、秋のようなさわやかな青空が広がり、石鎚の鋭鋒がくっきり見える。
笹倉谷沿いの林道をたどり、崩壊した砂防ダムを通り抜ける。15分ほどで、右手の斜面をのぼる登山道に折れる。(11時05分)
左手に渓流の音を聞きながら、急な尾根道を小さな歩幅でゆっくりと、立ち止まらないようにたどる。尾根を右に少しそれると、今度は右下から水のはじける音が響いてきた(11時25分)。
せせらぎをわたって枯れた谷をつめると、水音が聞こえなくなり、かわりに風に揺れる葉のざわめきや、アブの羽音が耳につく。樹齢数百年という巨木の梢の間から東側に筒上山がのぞく。
11時50分、左下から再び水音が響き、5分ほどでせせらぎに出た。顔を洗い、のどをうるおす。
ここからは枯れた谷とクマザサのなかをじりじりとのぼる。20分ほどで再び川にぶちあたり、戦後直後に営林署が試験的に植林したという針葉樹の暗い林を10分ほど歩くと、突然、木々の間から新緑のようなあざやかな緑が目に飛び込んできた。笹倉湿原だ。(12時15分)
だれもいない森のなか、思わず「オーッ」と叫んだ。周囲が暗い森なだけに、ぽっかりと広がった青空の下にある鮮やかな緑が鮮烈なのだ。
緑のウマスギゴケの湿原は、クマザサに囲まれている。乾燥化がすすみクマザサが繁茂し、20年前に比べるとずいぶん狭くなったという。
群がるアブや蚊を手ではらいながら、にぎりめしを頬張り、冷たいお茶を流し込んだ。深く透き通った空をあおぐと、無数のトンボが浮かんでいる。気温は盛夏だが、確実に秋が来ているのだ。
寂しくも透明な季節の先駆けを感じて、ケーナを吹いた。森と山の斜面に心地よく響いた。
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休憩含め 行き1時間半、帰り1時間ちょっと。コンパスをもってひたすら南を目指すことになる。分岐で迷ったら「右へ登る」。コース票に気をつければそれほど難しい道ではない。クマザサが多いため、天候によってはカッパが必要。