石鎚の奥庭、笹倉湿原

2003年8月21

 

 石鎚山の中腹、標高1400メートルの暗い原生林のなかにウマスギゴケの緑の湿原がある。「道もはっきりしないから1人じゃ無理」と言われ、長年、多くのハイカーにとって「幻の湿原」だったが、今では登山道がついているという。8月21日、訪ねてみようと午前8時半に松山を出発した。途中、美川村の道ばたで焼いているトウモロコシを食べ、面河村の物産センターで昼食用の焼きおにぎりを買った。

 

ウマスギゴケのじゅうたん

 午前10時50分、スカイラインを9キロほどのぼった金山谷に車をとめた。下界は35度の猛暑だが、秋のようなさわやかな青空が広がり、石鎚の鋭鋒がくっきり見える。
 笹倉谷沿いの林道をたどり、崩壊した砂防ダムを通り抜ける。15分ほどで、右手の斜面をのぼる登山道に折れる。(11時05分)
 左手に渓流の音を聞きながら、急な尾根道を小さな歩幅でゆっくりと、立ち止まらないようにたどる。尾根を右に少しそれると、今度は右下から水のはじける音が響いてきた(11時25分)。
 せせらぎをわたって枯れた谷をつめると、水音が聞こえなくなり、かわりに風に揺れる葉のざわめきや、アブの羽音が耳につく。樹齢数百年という巨木の梢の間から東側に筒上山がのぞく。
 11時50分、左下から再び水音が響き、5分ほどでせせらぎに出た。顔を洗い、のどをうるおす。
 ここからは枯れた谷とクマザサのなかをじりじりとのぼる。20分ほどで再び川にぶちあたり、戦後直後に営林署が試験的に植林したという針葉樹の暗い林を10分ほど歩くと、突然、木々の間から新緑のようなあざやかな緑が目に飛び込んできた。笹倉湿原だ。(12時15分)
 だれもいない森のなか、思わず「オーッ」と叫んだ。周囲が暗い森なだけに、ぽっかりと広がった青空の下にある鮮やかな緑が鮮烈なのだ。
 緑のウマスギゴケの湿原は、クマザサに囲まれている。乾燥化がすすみクマザサが繁茂し、20年前に比べるとずいぶん狭くなったという。
 群がるアブや蚊を手ではらいながら、にぎりめしを頬張り、冷たいお茶を流し込んだ。深く透き通った空をあおぐと、無数のトンボが浮かんでいる。気温は盛夏だが、確実に秋が来ているのだ。
 寂しくも透明な季節の先駆けを感じて、ケーナを吹いた。森と山の斜面に心地よく響いた。

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休憩含め 行き1時間半、帰り1時間ちょっと。コンパスをもってひたすら南を目指すことになる。分岐で迷ったら「右へ登る」。コース票に気をつければそれほど難しい道ではない。クマザサが多いため、天候によってはカッパが必要。


ここを過ぎてまもなく右手の登山道に入る


暗い森のなかに突如現れる