愛媛遍路・秋 土居-川之江

2004年9月20
においの道

 伊予三島のフジの駐車場で車を降りたとたんにパルプ工場のにおい。タクシーの運ちゃんの説明では、木片からパルプをつくる製造工程をもつ大工場がことに強い臭いを放つという。伊予三島には大王製紙、川之江には丸住製紙がある。
 9時50分、駅を出発。10分ほど土居方面に旧道を戻って、遍路道の標識がある分岐点を左に曲がる。
 住宅地のなかの細い道を右に折れ左に折れする。バイパスのような大きな道路が新たなにできているから、遍路道が分断されていてわかりにくい。「三角寺○丁」などと刻まれた古い標石がたくさんあるのが救いだ。
 10時半。中田井?という集落で、民家のわきに石臼が2つ3つ放置してあるのを見つけた。昔は粉屋だったんだろうか。石臼の分布って地域差があるのかな。いつごろまで使われてきたんだろう〓。粉ひきを家でやらなくなるのはいつごろからなのか。
 高速の下の暗いトンネルをくぐり、斜面をのぼり墓地に出る。墓の多くは「○○家の墓」ではなく、「安霊碑」「納骨碑」と記されている〓。
 銅山川の発電所のちょっと先にある疎水公園は、サクラの季節は美しかろう。小学生の女の子が「何してるんですか?」と尋ねてきた。「お遍路さん」とはおこがましくて言えず、困ったなあ、と考えていたらレイザルが「お遍路さんの歩く道を歩いてるんよ」。さすが元秘書(部長のだけど)、機転が効く。「写真とってるんですか?」と小学生。そうそうそのとおり。救われました。小学生の女の子が一番機転が効く。
 山に向かう道、田んぼの畦などには曼珠沙華が咲き乱れている。だが、昨日に比べると色あせてきているような気がする。急な斜面をのぼりふり返ると、高い煙突から白い煙が雲までのぼっていく。煙突が高くなり、市街地の空気はきれいになったが、山を越えて徳島の池田側の空気が悪くなった、と聞かされた。斜面の向きがかわるたびに、においがしたりしなかったりする。
 11時10分、「山上」という名の集会所の前で5分間休憩してあんパンを食う。棚田の畦には曼珠沙華。根っこに毒があって、畦に植えておけばネズミが寄りつかなくなるから水もれを防げる。だから植えた、という説を以前に聞いた。畦が真っ赤になるほど花を見ると、なるほどそうかもしれない、と思う。青柿の下に赤い花が群生する様子も秋を感じさせてくれる。
 棚田をのぼりきると林道をのぼる。三角寺に近づくと、獣の糞尿のにおいがしてくる。最初はほっこりしたにおい。「これは馬やなあ」とレイザル。不快そうではない。そのうち強烈になってくる。 「牛やで、これ」と言って鼻をつまむ。さらに近づくとさらにすごみを増す。 「人間かブタや。うわぁくっさー」と目までつぶった。
 12時10分、標高430メートルの三角寺に着いた。
 大型観光バスから、ぞろぞろと白衣の遍路が降りたつ。真新しい杖をチリンチリンと鳴らして。門前の急な石段をのぼりながら、「くさ!、あーくっさ!」「くっさぁー」と騒いでいる。おいおい。信仰心はどないしたんや。
 ずっと歩いてくると、絶えず悪臭をかぐから今更なんとも思わないが、冷房の効いたバスを降りて突然悪臭に襲われるから衝撃も大きいのだろう。
 集団遍路のなかに、御先達と思われるおじいさんだけ、なんだか威厳のありそうな服を着ていた。納札の色も、まわる回数ごとにかわる。宗教にまで階級をつけるなんて、おろかなことだ。
 12時35分発。納経所の人は「椿堂方面は門を出て右へ」と言っていたが、看板は門を出て左への道を示している。左手に歩く。山をどんどん下り、里に出る。柿の木、彼岸花、コスモス。秋のアイテムがそろっている。川沿いをくだって13時10分に三角寺口のバス停に着く。目の前にはくすんだ古い木造の駄菓子屋。廃屋の壁には時計がかかっている。懐かしい風景だ。
 右に折れ、左手に集落をみおろしながら、山腹の林間の道を歩く。30分ほどで二車線の舗装道路に出た。右手に「三角寺」という案内板がある。寺の山門を出て右に進めば、山の上を通ってここに降りて来られたのだろう。
 平山という集落にはあずまやの休憩所がある。「脇建設」という建設会社がたてたもので、簡易トイレもある。昼食休憩。
 14時25分、高速道路下の暗いトンネルをくぐり、さらに15分ほどで椿堂のある集落に着いた。「秋葉神社」というお社がある。静岡で秋葉道のことを取材したことがあったが、照葉樹林の文化があるところや、平家の落人伝説のあるところに秋葉神社が多い印象がある。ただ、この集落には落人伝説はないという。
 「天然記念物 中央構造線川滝断層450メートル」という看板にレイザルが反応した。「行こう」という。行くのは異論はない。だが、450メートルという距離を理解していないらしく、200メートルほど急な坂をのぼって、「ねぇ、まだぁ」と言い出した。「坂道の450メートルって1キロ歩くようなもんや」というと「ゲッ、しもた」
 空がどんどん暗くなる。断層を見て、戻りかけたら降りだした。あっという間にざんざんぶりに。倉庫の軒下で雨宿り。椿堂はほんの100メートルほど先だが、タクシーを呼んで川之江駅にもどった。2300円。
 川之江駅前には無料の駐車場がたくさんあるから今度来るときは便利そうだ。 【つづく】


遠くにパルプ工場の白煙

 


大先達・中務茂兵衛の標石

 


棚田の畦の彼岸花

 


三角寺

 


萩の花