燃えろ体脂肪
 天ケ岳(788メートル)A

1999年10月17

 

 さらに1時間ほどの午後零時半、おばさんたちの声が聞こえるなあ、と思ったら頂上だった。
  4,5人のグループ。弁当を広げ大声でしゃべっている。おじさんのグループは対照的に静かにポツリポツリと語っている。
−−宝ヶ池プリンスのフランス料理はおいしいのよ
−−マールブランシュのケーキもいいわね……
 おばちゃんの会話は僕には理解できない。
「そういうの好きなら山まで来なきゃいいのに。うるさいうるさい。おじさんは静かなのにね。おじさんはええなあ。私、おじさん好きや」(レイザル)
 赤飯と柿とミカンを平らげて1時10分に下山に入る。
  アメの包み紙やらなんやらがポツリポツリと落ちている。早池峰山のように管理人がいないためだろう。
「きっと中年ハイカーやで。あかんなあ」(レイザル)
「なんで中年ってわかるんや」
「わからんか? アメの包み紙にしても、お菓子にしても渋めやんか。そのくらい推理せいや。私ってサツの才能があるんちゃうか」。ハイハイ。
 大原方面に降りる途中の尾根で、南側の展望がパッと開けた。尾根と尾根の間から、京都市街地がのぞめる。ススキがサラサラと揺れ、山葡萄の紫が秋の彩りを添えている。
 と、後ろからおっさんの話し声が聞こえてきた。
「きょうはヘナチョコちゃうで。振り切るで。ゴローもひっちゅいて来い」
レイザルはピョコンと立ち上がると、杖2本を駆使して岩場を「ホイッホイット」とかけ声をかけて降り始めた。早池峰のときはおびえて10センチずつ足を出す始末だったが、今回は「四足猿足歩行」の成果か、人並みのスピードが出ている。たいした進歩だ。
 寂光院には午後3時10分に到着した。漬け物のにおいと大輪のコスモス群落が人里を感じさせていた。

ススキの穂が秋らしい大原への下り道