あみだ会から江戸へA

1999年9月  レイザル作

トイレで通じる

  新逗子から京急で横浜へ向かう。来るたびに新しいビルが増えている。 山手や元町などの昔ながらの建物は、圧倒されて影が薄い。
 元町の商店街にある老舗の洋装店「F」でTシャツ、同じく老舗の靴屋「M」で靴を買う。退職金があるからTシャツは高級なのを買ったから肌触りがよい。靴も赤と紺のコンビでデザインも横浜らしい。
  老舗のにおいの染みついた店員はいい。 私の足と服装を見て「これ」と決めたらこちらがなんと言おうと譲らない。そのかわり丁寧に説明してくれる。なるほどこっちを選んで正解だったかも、と納得させられる。
 新宿へ。時間つぶしに「追分だんご」に入り宇治金時を食べる。
 隣にはイマドキの若いカップルが冷やし汁粉を食べ「マッタリ」している。
「やっぱ漬け物おいしーよねー。」
「汁粉サイコー」…
若いんだかババ臭いんだかイマドキの人はわからない。

 翌朝、新宿駅の駅ビルで何気なくパンツ(ズボン)を手に取ってみていたら、若い女の店員が
「オネーサン、それイケてます。グーです、グーです。」 と親指を立てて人なつっこく笑いかけてきた。 なにがイケテてグーなのかわからなかったけど、うれしい。
  駅ビルのトイレにはいるといたずら書き。 「090-XXX-・・・にイタ電して。超ムカつくヤツなの」
その後に「情けないよ。やめなよ」
さらに「何も知らねーくせに・・・」
さらにさらに「じゃあ何も知らねーヤツに頼むな」。
顔を知らない者同志がトイレの壁を通じて心のやりとり。 みんなさびしーんだなぁ。でもトイレで通じるのは「大」の方だけにしてほしい。
 山手線に乗って原宿で降りる。竹下通りは「ブラザー」の客引きが目立つ。 「HEY!BABY!カモーンッ!!」とか 「LOVELY!」などとラップ調で声をかけている(なぜか私にではない)。たこやき、クレープ、もんじゃ焼き・・・。お祭りの屋台みたいな所だ。 18,9の男の子の会話。
「ビートルズのアルバム、イエローサブマリンてゆーのが出てるんだけど あれ、すっげーいいよ」
(いつの話やっ!!)
「おばちゃんの家にはABBY ROADのレコードがあるよ。」 と言えば彼は私を「リスペクト」してくれるかなあ…。
 「モリハナエビル」は改装していた。チョウのマークが付いている鍋やらバッグやらを見ると 「他にもっとええモチーフが無かったんかいな」と思うけど、このビルは好きだ。オートクチュールのサロンだけではなく、喫茶店、花屋、チョコレート屋など入っているテナントのバランスがいい。
 渋谷方面へウロウロ。道路工事の若い女の子の警備員はばっちりメイクで座り込んで働きもせず、捨て猫みたいな目でトロンとしている。 オジサンは一生懸命働いているのに、と思っていたら若い男の警備員も座り込んでジュース飲んでた。 「くぉらぁー!!おめーらも働けぇーーー!!」と怒りがこみ上げた。
  オジサンは、あきらめているのか、怖いのか。
 大阪行きの夜行バスが出るまで、本屋でひまつぶし。立ち読みしすぎバスに乗る前に酔ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 原宿ではスカウトされなかったし、
渋谷でもナンパされなかった。
銀座の夜の蝶にもなれなかった。
有楽町で会うこともなければ、
銀座の恋の物語も始まらなかった。
声をかけられた事といえば、
渋谷で新興宗教の人が
パンフレットくれた時だったか・・・。
これが現実の東京だよおっかさん。