芦生の森は地球の腎臓

京都・美山 1997年9月21

 

 西日本屈指の原生林である京大芦生演習林(京都府美山町)は、日本海に注ぐ由良川の源流にある。総面積4000ヘクタールのうち、4分の1が原生林だという。  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 演習林入り口で、なめこ生産組合の人が運転するマイクロバスに乗り換え40分ほどの場所から、この日のツアーは出発する。
 スギの幹がくぼんでいるのはクマはぎの跡だ。傷口をふさぐためふくらむ。芯は全部腐り、空洞ができ、ミツバチなどの巣ができる。
 山の合間にポッカリと草原が広がっている。明治10年まで畑だったから、窒素が増え、森は回復しないのだ。120年たっても木が生えない。
「マキを取るために木を切っても大丈夫だが、人が住んだあとは木はなかなか生えない」とガイドの主原憲司さんが説明する。
 椰子のミニチュアのような葉の足元にパイナップルに似た実を見つけた。世界でもここにしかないアシウテンナンショウだ。10年前はこの谷だけで数百株あったが、主原さんが5月(97年)に花を数えると18株だけ。翌日には盗採で15株に減っていた。
環境によって雄株と雌株に別れ、キノコバエが花粉を仲介し、赤い実をヤマドリが食べ、フンを出してはじめて発芽する。どれかひとつの要素が欠けても絶滅してしまうのだ。
 主原さんが立ち止まった。
「こっちが原生林、あっちは二次林です」。どちらも同じに見える。
「原生林は高木、亜高木、低木とわかれるし、樹齢が違うからでこぼこです。伐採した林は高さが一緒です」
 空がポッカリのぞく日溜まりで昼食を取る。今年この谷では11年ぶりにミズナラが倒れてできた空間だ。平坦ならば木はいくらでも大きくなれるが、斜面では限界がある。ここでは30メートルを超えると肩たたきにあうという。
「1度あいた空間を埋めるには100年以上かかります」(主原さん)
 最近、大気汚染の影響か、死ぬはずのない木がずいぶん死んでいる。温暖化で開花時期がずれたら花粉を仲介するハチに出会えず子孫を残せない。ほんのわずかな環境の変動が森を殺してしまうのだ。
 ずぶぬれになりながら谷をくだり2時間、川沿いに芦原が現れた。
「山からの有機物をここでため、分解して、きれいな水にして流す。少々雨がふっても下流の水はすぐきれいになります」
 木は山の肺、芦原は腎臓なのである。

 

芦生セミナー
http://dicc.kais.kyoto-u.ac.jp/ASHIU/bbb.html

 

 

 

 

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