陸が海になる夜景
森のなかの数百段の階段を10分間かけてのぼる。
森が切れた。茜色の雲と夕日が目に飛び込む。眼下には灯がともりはじめた京都の町並み。周囲が男ばかりであることを忘れ、息をのんだ。
「大」の字の横の辺の部分は絶好の展望台だ。送り火を燃やすかまどがずらり並んでいる。京都中から見えるのだから、京都中を見渡せるのは道理ではある。
15分後、真正面の愛宕山の脇に茜色の日が沈んだ。
周囲の暗闇が濃くなるに従って、街の灯は明るさを増す。鴨川と高野川のY字型の合流点と、長方形の御所と、下鴨神社などの林は、灯がないから真っ黒に沈んでいる。星の数が増えるにつれて、京都盆地を囲む山々の闇はますます濃くなる。
函館の夜景に似ている。街を囲む闇が海のように見えるからだ。山中に灯る小さな光の点々はイカ釣り漁船の漁り火だ。
しばらく鑑賞したあと、テントに降りて、たき火を囲む。
語り、うたい、踊り、くだをまき、吐き…。深夜2時までは記憶があるが、気づいたらテントのなかにいた。
ブオーッ、ブオーッと、猛獣の吠え声がきこえる。夢を見てるんやなあ、と思ってたら、ほかの奴らも起き出した。
「ウーオーソーコー…」と今度は人間のうなり声がする。合間にブオー、ブオー。
「山伏や」。だれかが言った。法螺貝の音をこれほど間近に聞くのははじめてだ。昨日見た道祖神のところで何人かが祈っているようだ。
不気味やなあ、と思ったけど、山伏のおじさんたちにとっては、こんなところにテントを張っている俺たちの方が不気味なんだろうなあ。
完