花の香 みつる島A

愛媛・興居島 1999年5月

ミカンの山に迫る臭気

  ため池のわきをのぼる。さらに下にも深い焦げ茶色のため池。ウグイスがケキョケキョケキョケキョ……。カラスが群れている。ビワの実でもあさっているのだろう。
 だんだん思い出した。5年前に何回か来たことがある高戸山(117メートル)展望台への道だ。
 イタドリがたくさん生えている。この時期は一番元気がよくて柔らかい。太くてやわらかそうなのを折り、皮をむきシャリリとかじる。わずかに酸っぱい。山で水分に飢えているときにはこれでもありがたいけど、きょうは麦茶がある。
  バンッ。猟銃の音、さっきより近づいている。
 コンクリートの古びた展望台。1階は便所のように陰気だ。きっと便所に使った奴もいることだろう。階上へ。日が当たり、暑い。けど瀬戸内の展望は抜群だ。春の靄にかすむヌタヌタした湾にはフェリーが1隻浮かんでいる。反対側にはいくつかの島影が明るい影絵のように浮かぶ。
 下草が半分おおっているミカン畑の小道がよい。冬はミカンの山吹色の提灯の間を、春は花の香をわけいって、つらつらとのぼるのがよい。リゾート開発の波が押し寄せなくてよかった、と思う。
 万事が塞翁が馬、である。

 アッ、船の時間まであとわずかだ。あわてて降りる。200メートルほど歩くと、、さっきまでの花の香りのかわりに、人工的な甘ったるいにおいがする。
 ブーンとうなりをあげるがアブではない。ミカン畑のところどころから白い湯気があがっている。 あっちでブーン、こっちでブーン。
 農薬散布である。
 ブルドーザーの轟音も響き始めた。心なしか、吐き気さえ感じた。

ミカンの花が満開だった

 

 松山市中心部から伊予鉄高浜線で20分、終点下車。目の前からフェリー(1時間に1本程度)で約15分。
□宿泊: ビジネスホテル「アキタ」 4800円。普通。JR駅前には5000円前後の宿の空き情報がある。島でテントで寝るのが一番ぜいたく。YHやカンポールも要チェック。
□松山市中心部の居酒屋(今もあるか否かは確認してください):
 ○びんび寿司: ネタが大きい。明朗会計。
 ○誠(せい):瀬戸内の白身の魚がおいしい。工夫をこらした魚料理も。若い客も多い。
 ○サントリーバー露口:感じのよいマスターのバー。