犬に化かされる
島の反対側にはこれまた「こっそり教えます」の名所、「サウンド波間田」がある。芝生と更衣室とシャワーを完備したレジャー施設というが、犬を連れた老夫婦が散歩しているだけ。
左手に向かう石畳の急な坂を登ると、途中立派な噴水(もちろん水は出ていない)を通り、最高峰の立石山(139メートル)の頂上に出る。木造の展望台があるが朽ちているのか「立ち入り禁止」。サウンド…にしろ噴水にしろ展望台にしろ、よくまあ無駄な施設を作ったもんだ。行政のレベルがよくわかる。
でも、展望台からの夕暮れの眺望は素晴らしい。弓削や岩城、赤穂根などの島が、ねっとりと静まり返った夕刻の海に浮かび、漁船がドドドドとかすかな音をたてて、銀色に輝く航跡を残す。
15分ほど頂上でのんびりしたあと、噴水までくだると、ザアアアと水の音が聞こえる。周囲には僕1人しかいない。いったいだれが、何のために?
いぶかっていると、噴水のわきから3匹の犬が飛び出し、僕の方をチラリと盗み見て、森のなかに駆け込んでしまった。まさか…?
夜、開票所のある小学校に行く。テレビのアルバイトで開票調査をしているおっさんらと話す。かつては人口3000人だったのがいまは2000人。産業なんか何もない。すべて因島側の造船に依存しているベッドタウンだという。おっさん自身、対岸の造船所に通っている。水道も広島側から引いている。愛媛県である意味がどこにあるのだろう。
「橋ができたとしても、この島には何もないから通り抜けるだけ。何もかわらんやろね」
夜、午後10時半の最終の渡船に乗るため桟橋まで20分ほど歩いた。対岸の因島市側の造船所を彩る電灯が、物悲しくなまめかしい。炭鉱の町のイメージとどこか似たものを感じた。