日本1の漆の産地
山門をくぐると右手に売店があり、その前のテントの下の机に、お茶のポットと茶碗が置いてある。「冷たいお茶どうぞ」とあるのがうれしい。
1200年前の創建と伝えられる古刹だが、本堂は江戸時代のものだ。仏像のいくつかは平安時代の作品がある。
「当時は写真なんてなかったからな。京都まで歩いていって、仏像を書き写して、『これが京都風や』って真似て彫ったんやろな。見てたら、なんとなくぎこちない感じがするやろ?」(レイザル)
1987年に瀬戸内寂聴さんが住職になり、毎月第1日曜日に法話がある。地蔵さんもそれから少しずつ増やしてきたという。
寺を辞して、浄法寺塗りを見に「滴生舎」を訪ねる。町が建てた施設で、塗りの実演と販売をしている。
塗り物好きのレイザルの目の色がかわる。
「すごい、すごいで、たくさん種類があるやん。阪神百貨店じゃぜったいないで。輪島塗みたいにへんな飾りがなくて、シンプルなのがええんや。洋食器とも合わせられる。ほら、これ、持ったらええ感じやろ」
たしかに、重厚で手にすいつくようで、つや消しの朱色もなじみやすい。店員さんを30分間も引きずりまわして騒ぐほどとは思わないけど。
浄法寺町は、全国1の漆生産量を誇るという。とはいっても漆の99%は安い外国産が占めるから、ここでも、下塗りは中国産を使い、仕上げに地元産を使っている。プラスチック容器の普及で塗りは衰退し、いま、作っている人は10人程度で、後継者難だという。
「後継者難って、ええ言葉や。私でもやらせてもらえるやろか。職人にでもなろうかな」
どうせ持続しないくせに。
浄法寺の町はさびれてはいるが、なんとなく歩くのは楽しそう。 「これから人を呼びますって努力してるやん。職人の町って感じだから、さびれても自信をもって残るものがあるんちゃうか」。レイザルはべた褒めだ。
花巻でレンタカーを返し、遠野まで汽車に行って泊まることにする。 ひとまず完