太陽と共に酒
5時半、JRの高架の向こうに太陽が昇り、急に世界がまぶしくなる。 「鉄筋型枠17000円」という看板をフロントガラスにかかげたバンのわきを通ると、「ゲンキン(日雇い)いくか?」と声をかけられる。
「いえ、きょうは…」と答えて離れた。
「この前まで山梨に行っててな」
「久しぶりやな。わしは北海道や」という会話があちこちで交わされている。
近くの公園では、いつの間にかクマゼミがワシワシと鳴き始めた。道に敷いて寝ていた毛布をたたみ、そこかしこで、前夜集めた段ボールを自転車に積み込んだり、期限切れの弁当をほおばったりしている。
薄暗いうちはコーヒー缶を手にする人はいても、酒を飲む人は少なかった。それが、陽が昇ると、ビールやワンカップをあおる車座がチラホラ現れる。空気が弛緩するのが肌でわかる。
「もう酒飲んじまったからあかんわ。きょうは終わりや」
仕事にありつけなかったおっさんたちはなけなしの金で酒を飲む。
6時40分、飲み屋があちこちでシャッターをあげ、だらけた「釜ケ崎」の雰囲気ができあがる。
露店で中古ギターを2000円で買い、近くの商店街の喫茶店でモーニングをたのんだ。食パン半分、ゆで卵、バナナの輪切り、コーヒーで300円。
1日が終わった気分で地下鉄で乗ったときには、まだ通勤客は座席を埋める程度しかいない。
サラリーマンの奔流が新今宮駅周辺を席巻するのはさらに1時間後である。
(完)