清春芸術村
暖炉のあるログハウスの食堂の朝は気持ちよい。ログハウスって、安物だとすぐに古びてしまうが、カナダから輸入したというここの丸太は大きくて、爽やかな木の香を放っている。
庭のベンチやリスの細工をした郵便ポスト、部屋のカギにつけた動物の彫り物など、全部オーナーが作った。手作りっていいなあと思う。
きょうは山梨県長坂町方面に車を走らせる。
サルが十数年前にお世話になった人の店や、ユミさんが十数年にバイトしていたペンションやらを見学する。そういえば俺が十数年前に野宿した駅もこのへんにいくつかあるよなあ。「十数年前」がサラサラ出てくるところが複雑な気分だ。
道ばたの看板をめざとく見つけたサルが叫んだ。
「あ、ここおいしいで」
ソバ屋の「翁」。十数年前に来たことがあるらしい。
メニューは田舎ソバとザルそばだけ。田舎ソバは、しっかりした歯ごたえの黒目の麺、ザルは白っぽい細い麺で甘みがある。関西のソバがまずいせいもあるが、これだけうまいソバは8年前に静岡で食べて以来ではないか。そば湯もほのかな甘みがうまかった。
「翁」からほど近いところに清春白樺美術館が建っている清春芸術村はある。
昔の小学校の敷地に、芸術家たちのためのアトリエや礼拝堂などが建つ。敷地の周囲は桜が植えられ、繊細な白樺の林が風景を引き締める。正面には南アルプスの甲斐駒ヶ岳がそびえている。頂上付近は強風なのか雪煙が舞っているのがわかる。八ヶ岳も堂々とした山容だけど、南アルプスの重厚感には比すべくもない。芝生の庭に立って、思わず見入ってしまう。
桜の季節はさぞきれいだろう。
周囲の農村も蓼科のように俗化されていない。こんな所に住めたら気持ちよいだろうなあと思う。