堀辰雄の宿
中軽井沢から歩いて30分ほどで、旧中山道の追分宿に着く。
堀辰雄も定宿にしたという旅館「油屋」は1泊13000円。満室かと思ったら、サービスできる範囲しか客を入れないらしく、ガラガラだった。
食事は、食べ切れない豪勢な旅館料理ではなく、自分のとこでとれた山菜などを使った家庭的なものだ。水がいいせいかコメやお茶がうまく、ヤマウドとかコンニャクとかもおいしい。目玉料理があるわけではないが、自分たちのできることという範囲内で精一杯やってる感じだ。
堀辰雄が泊まった部屋は旧館の2階にある。昔の旅籠が焼失したあと、戦前(昭和13年?)に宮大工が建てたという。太い梁や漆喰の壁が落ち着く。総支配人によれば、堀辰雄には「出世払いで」と部屋を貸したという。
小説家は静寂を好むからか必ず角部屋を選ぶ。窓から中庭の桜とこぶしの花が望める。こんなところで小説執筆なんてできたらいいだろうな、と思う。
翌朝、堀辰雄の資料館を見る。縁側のある平屋の日本建築は懐かしいイメージだ。土地さえあれば、2階建てではなく、こんな家に住みたいなと思った。茶屋で追分だんごを食べる。これもまた美味。
帰途は軽井沢からバスで横川に出る。新幹線ができたせいで信越線の横川−軽井沢間は廃止されてしまった。巨大プロジェクトはいいけれど、庶民の足が奪われるおかしさよ。
横川駅前には「鉄道文化公園」ができている。信越線の線路の切れる最果ての駅は、鉄道オタクの聖地のようになっている。レイザルは真っ先に駅弁売りの売店に走った。釜飯は900円。
「テレビでよくみる駅弁売りのおじさんやった。『おじさんから釜飯買えてよかった』って言ったら、おじさん、ほっぺたを赤くしてたで」
あまりおじさんをからかうなっちゅうの。