女性の強さ垣間見る
頂上の、固く締め切られた宿坊前で握り飯を食べて、大普賢岳方面をのぞく。空は深く澄んで、遠くの山並みまで見渡せる。ちょっと離れた稜線からは、飛鳥方面の盆地がくっきり見える。
稲村ガ岳に向かう小道は、吉野からの道よりは荒れている。太い石楠花の木がニョキニョキと茂り、5月にはさぞきれいだろう。紅葉も終わり、葉を落とした裸の木々は、陽の光を浴びてのどかだ。枝が揺れると地面にうつる影がチロチロとふるえる。
目を閉じて、深く息を吸って止める。サワサワと風がそよぎ、カコーン、コココと石が転がる。音が微妙な調和を保っている。大阪では目を閉じて音を聞き分けようとしても、機械音ですぐ破られてしまう。そうやって、音への微妙な感覚をなくしてしまうのだろう。「岩にしみいる蝉の声」を感じる感性は、日本人には残っていないかもしれない。
女人結界を出て稲村小屋まで来ると、途端ににぎやかになる、女性があちこちで車座になっている。女人禁制というだけで、山が静かになってしまう。おばちゃんパワーを実感した。
さらに2時間余で洞川温泉に到着した。
陀羅尼助という胃腸薬の看板があちこちにある。甘くておいしい水を使った「名水豆腐」も名物らしい。
いくつかの旅館は「ぶらり湯(?)」と名づけて、入浴客を受け入れている。そのひとつに入った。料金は500円。壁と天井に真新しい木を使った浴室に石造りの清潔な浴槽があり、庭に向かって窓が開け放たれている。ぬるめの湯はのんびりと山の疲れを取るのにちょうどよい。旅館同士が競い合っているから、安くて質がよいのだろう。
道端に出した屋台で鮎や岩魚、アマゴを炭火であぶっている。近くでとれた鹿肉で作ったミンチカツもある。ビールをのみながら、岩魚とカツをほおばる。岩魚は頭からしっぽのさきまで食べられてうまかった。
完
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