大分駅から豊肥本線のローカル線で1時間ほど、竹田市は山に囲まれた町である。車でも鉄道でも岩盤をぶち抜いたトンネルを必ず抜けなければならない。
竹田駅のホームに降りると、「荒城の月」が流れている。
「竹田には荒城の月しかないんやなあ」。ツレがつぶやく。
目の前の大きな川を渡る。冬の空気は澄み切って、サアサアという水音が心地好い。人口2万人弱の「市」だというのに不思議な静けさを保っている。川の雰囲気は宝塚に似ていて、透明感は岩手の花巻のようだ。
駅前の観光地図に示された散歩道をたどる。
まず目をひいたのは雑貨屋だ。ステンレスの鍋やヤカンといっしょに、竹かごやワラ草履、民芸調の土産品まで並ぶ。
石畳の道をたどりプラリ歩くと、梅が香が鼻をくすぐる。家の庭には、ピンクの花が顔をのぞかせている。
滝廉太郎の旧宅は記念館になっている(300円)。受付のおばちゃんが上映中のビデオを指差し
「このおばあちゃんは筑紫哲也さんの…(お母さん?おばあちゃん?)。廉太郎さんの妹さんでございます」
「廉太郎さんのお父さんは郡長さん、今でいう副知事さんで、相当のエリートさんだったんですねえ」
僕らにつきっきりでとうとうと説明する。こちらから口をはさむ余裕は与えてくれない。
若くして亡くなった悲運の清貧音楽家というイメージをもっていたが、エリート官僚の息子でドイツにも留学したボンボンだったそうな。壁にはってある廉太郎の家系図の末尾に、筑紫哲也の名前がある。
「けっきょくそれが書きたいわけや。エリート好きってことやね」とツレは1人納得した様子だった。
【つづく】