「往復の飛行機と2泊分のホテル代がついて37000円だって」という情報に飛びつき、11月はじめに2泊3日で宮古島を訪ねた。37000円といえば通常の片道の航空運賃だ。
宿泊するホテルは、旧上野村(10月に合併で宮古島市に)の「ドイツ文化村」のわきにある。南国の風景と「ドイツ」の古城はミスマッチ。壁の塗装がはげていて安っぽさを際だたせている。全国各地にはびこるムダな「村おこし」の一例だ。
「ホテルブリーズベイマリーナ」は一昔前にはやったリゾートホテルスタイルだ。目の前はプライベートビーチで、屋外と屋内にプールもある。「展望風呂」が中途半端だったり、海の見えるベランダのつくりが安っぽかったりするのはご愛敬だ。
町中まではタクシーで3000円ほどかかるから、ホテルのレストラン「ポルトフィーノ」(なんでイタリア語やねん)で琉球料理のバイキング(3500円)を食べる。メニューは豊富で味も悪くない。ビールと泡盛を含めて2人で1万円。
翌日はカヤックとシュノーケリングのプログラム(1人1万円)に参加することにした。新月と満月の日にしか入り口があらわれない海岸の鍾乳洞に入れるという。
出発地は保良泉ビーチ。ウェットスーツに着替え、もう1組のカップルと2艇のカヌーに乗り込む。ガイドの「オーチャン」ことオオシロさんは真っ黒な沖縄のオジイで、いいカンジ。「オーチャンって呼んでください」というから、「おじさん」と呼びかけるのはやめといた。
オーチャンの後についてこぎだす。シーカヤックは西表島以来だ。珊瑚礁の海は底まですけて見える。
日本軍の兵士の骨が残るという崖の穴の下を通り、赤い海藻がおいしげるウニの産卵場を経て20分ほどで「無人ビーチ」に到着する。道路が通ってないから船でしかたどり着けない。目の前の断崖の上は自衛隊の射撃練習場になっていて、冬場の訓練期間はカヌーツアーも中止になるという。
斜面から突きでたパイプから真水がザブザブと流れているのがうれしい。平坦な宮古島には川がない。雨水は浸透し、地下にたまった水がところどころこうして吹き出ている。飲料水は井戸や、地下ダムでまかなっている。川がなくて土砂が流出しないから海の透明度が高いという。
無人ビーチで2時間ほどシュノーケリングを楽しむ。手渡された魚肉ソーセージをもって泳ぐと、原色の熱帯魚が群がってくる。西表の海もきれいだったが、ここほどの魚は見たことがない。エンゼルフィッシュがいると思えば、イソギンチャクのなかに3本縞のクマノミが隠れ、珊瑚の陰から大きな鯛?もあらわれる。珊瑚礁の外側の波がたっている外海に出ると、鮫やウミヘビもうようよしているらしい。
昼食はオーチャン手作りのイカスミ焼きそばだ。薄味だから苦手な人もいるだろう。5人用にしては多すぎる。 「こんな食べられませんよ」というと、
「大丈夫さ。捨てとけば夜になったらヤシガニが出てきて食べるから」という。無数のヤドカリが残飯をめあてに群がっている。サザエのような貝を根城にした巨大なヤドカリもいる。天然記念物だという。この程度の人間の数とゴミの量ならば、自然に消費され分解されてしまうというわけだ。
帰途、大潮の日の引き潮の時間にしか入れないという鍾乳洞へ。カヌーをおいて、犬かきで泳いで洞窟に入り、ざらざらの石灰岩のがけをよじのぼる。真っ暗な洞穴のなかに、柱状の岩が無数に垂れ下がっている。真水がザアザアと音をたてて石灰の岩肌を流れる。戦争中、この洞窟には300人が避難して暮らしていた。出入り口は海に隠れているから、沖合の米軍にも発見されなかったという。
懐中電灯をたよりに、鍾乳洞を50メートルほど奥まで歩く。天井から木の根が飛び出している。鍾乳洞の上には御嶽(社)があり地元の人の信仰の対象になっているという。
洞窟内の3メートルほどの崖をドブンと水中に飛び降りて海にでる。
最後は星砂探し。「コツは底にころがってる岩を拾うこと。ほらこんなにくっついてる。みんな生きてるさぁ」
アドベンチャーカヌーというだけあって、カヤックに乗る距離は短いけど舞台装置がふんだんにそろっていた。
午後3時すぎに出発点のビーチに到着する。オーチャンに「おいくつですか」ときくと「40歳です」という。「えっ?」と顔を見合わせて口をつぐんでしまった。50歳とか60歳と言われたら、「そんな年には見えないですよぉ。若いですねえ」と言おうとしたが、「40歳」では私らとあまりかわらんではないか。「まさかぁ!」と言うわけにもいかず、困った。
午後4時、ホテルにもどり一服したあと、平良の街に出ることに。空港の近くまで無料バスで行き、そこからタクシーを拾う。「おすすめの店はありますか」と尋ねると、「おふくろ亭」を紹介してくれた。観光客に人気だという。
土産物店や泡盛の菊の露の工場がある商店街のはずれに店はある。座敷がいくつかある居酒屋さん。壁には無数の名刺や有名人らしき人たちのサイン入りの色紙がはってある。
単品でたのんでもよかったが、おまかせコース(3000円)を注文してみた。小鉢や刺身がずらりと並んだあと(刺身は瀬戸内や日本海のほうがうまい)、ゴーヤチャンプルやソーメンチャンプルなどの定番が出てくる。
チャンプル類のほとんどが、肉やミート缶ではなく鰹などの地物の魚を使っているからさっぱりしていておいしい。アーサの天ぷらが特に印象的だった。伊勢エビのウニ焼きとかも食べたかったが、腹いっぱいになってしまった。ビールや泡盛を含めて2人で1万円はいい値段だが、味には満足した。
商店街には「祝合併」の横断幕が飾られている。10月1日に合併して「宮古島市」が誕生したばかりだ。多良間村だけは独立して残ったというのが興味深い。
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