かなり途中をぶっとばして、今回は徳島から歩くことに。
1泊して午前7時50分発。静まりかえった朝の繁華街を横目に眉山のふもとをぐるりとまわる。
「あ! パン屋だ。おいしそー!」のひとことでレイザルは店に吸い込まれていく。
「きょうは自信もって歩いてるやろ。全部知ってんねん。ここ自転車で走ったからな。アイスを買いにきたんや。ほんまおいしかったでぇ。フルフルの服着てさ。おねえちゃんかわいいで。私もバイトしたくなったわ」
んー、見たくない。で、つぶやく。
「バイトのおねえちゃんと、パートのおばちゃんの境目って何歳なんやろな」 。カガミを見てくれ。
そのうち何かを発見したかのように目を輝かせる。
「この町って和菓子の店が多いよなあ。ほらこっちにも、あ、ここにもあった」
パン屋やラーメン屋も多い。それも今や死語となりつつある「支那そば」って看板がけっこう目につく。追い打ちをかけるようににあらわれたのが、「中国花嫁紹介します」という看板だ。話には聞いていたが、こんなおおっぴらにやってるところがあるんやな。中国と縁が深いんかな。
午前9時10分、線路をわたり、40分ほどで国道に合流して勝浦川を渡る。広々とした川は心地よい。
渡るとなぜか、リアルな猪の看板がある。さわってみるとホンモノだった。
遍路道に入って落ち着いた雰囲気の小道をたどる。右手の山の斜面をのぼっていくと恩山寺だ(11時10分)。
山のなかの静かな境内に鳥の声がひびく。裏山は自然観察ができる小道になっている。住職がお堂の梁に正月飾りをつけている。
100メートルほどもどって、牛小屋を右に折れて山道に入る。牛小屋の角の部分にミカンの直売コーナーを設けてるのがおもしろい。こんな臭うところで売れるんか。
モー! と切ない声。
「正月用に仲間が売られていったんちゃうか」。そうかもね。
柿の木にはまっかに熟した柿がぽつぽつ。義経がたどったという竹林の小道をたどって舗装道路に出ると、ミカン畑があらわれる。
川沿いをしばらくたどって12時50分、立江寺の手前の商店街に到着する。商店街の入口にある和菓子屋に、「まんじゅうだ!」と叫んでレイザルは吸い込まれた。出てきていわく
「薄皮まんじゅうがおいしいらしいけど、今日は餅つきだからつくってないんだって。そのかわりと言っちゃなんだが……」と、栗まんじゅうと白あんのまんじゅうを取りだした。
「いくらやと思う? 2つで90円や。けっこうおいしいなあ」
13時、立江寺に着く。JRの駅にも近い町中にあり、建物は真新しい。が、いやらしいゴージャス感はないから好感をもてる。
さて、ここからどうするか。次の20番鶴林寺の登山口にある民宿はきょうはやってない。仕方ない。とりあえず20番の登山口まで歩いて、そこからバスでもどってこよう。
田んぼのなかの県道を内陸へ1時間ほど歩き、櫛渕という集落の、楠の巨木と楓の木の巨木のあるところで休憩する。さらに進んだバス停わきには遍路のためのプレハブの休憩所がある。「寿康寿庵」といい、ソファーや茶も用意されている。でも入るのはやめた。宗教心もないのに悪いもんな。水野真紀と後藤田ジュニアのポスターがあってがっかりしたってのも理由だけど。
さらに1時間弱歩き午後3時半ごろになって、バス道と離れてしまったことに気づいた。 鶴林寺の登山口までは4キロ弱あるが、今回はあきらめよう。1時間歩いて「寿康寿庵」のバス停にもどり、そこからタクシーを呼んだ。
電車をのりつぎ日和佐には19時すぎに着く。駅裏のホテル千羽へ。廊下は真っ暗で非常灯しかついてない。だが、硫黄のにおいのする温泉は最高だ。夕食は、刺身と茶碗蒸しと天ぷらと鍋といった「旅館飯」だが、空腹だったせいもあってあっというまに平らげた。
「ほんまうまいなあ。幸せやわあ」とレイザルはダイエットなどからっと忘れて飯をオカワリしている。そのせいで体重は大台を超えたそうな。ざまあみろ。
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