2001年4月

■「都心マンション−成功する選び方」 小学館文庫

  一般論の部分はおもしろくないが、マンションの適正価格を調べるために欧米では当たり前になっている「収益還元法」を紹介し、中古で貸した場合の相場を調べる方法を述べているのは参考になるい。
 リフォームの章は興味深かった。水回りや配管まで付け替えて天井を高く取ったり、廊下に書庫を設けたりと、大胆な改造の事例も紹介している。複数から無料で見積もりをとってもらった上でどうやって業者を選べばいいのか、といったノウハウも参考になる。
  ▽いえかうぞコム http://www.iekauzo.com 首都圏の駅ごとの坪単価一覧。
  ▽マンションリフォーム推進協議会 http://www.repco.gr.jp 改修業者探しに。

目次
■梅棹忠夫「文明の生態史観」中公文庫 2001/4/11

 有名な「文明の生態史観」と、それに関連した論文や紀行文を載せている。細かいデータを積み上げた緻密な理論とは思えないが、発想や創造性がすごい。発想のモデルに自然科学の生態学をもちい、分析の材料としては文化人類学的な調査を活用する。
 生物の進化を文明の進化のモデルとし、主体と環境との相互作用がつもりつもって次の段階の生活様式に移るという考え方を取っている。進化を1本道と考え、現状の違いは発展段階が違うだけで、いずれはすべてが同じところに行き着くと考える進化史観とは一線を画する。
 一度作った「生態史観」を、東南アジアのフィールド調査を通して修正していく過程も興味深い。日本と西欧が似ているように、東南アジアと東欧が似ているという。
 長らく主流だった「実践のための学問」と距離を置きアカデミズムの塔のなかで発言してきたため、保守派の重鎮のように思われることが多い。だが、幅広い世界観を背景にもち、日本人も自分自身をも相対化して分析するその目とそうした目をはぐくんだ行動力は見習うべきだろう。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 明治以来の日本文化の変化は西欧文明への改宗なのか、それとも根本は変わらず表面的に西洋化しているだけなのか。加藤周一の「雑種文化」という考え方に一定の評価をしている。と同時に、雑種化しない中国やインドとのちがいの説明ができていないと批判する。
 「生態史観」では、近代文明を発達させた日本と西欧を「第1地域」、それ以外の旧世界の諸国を「第2地域」と分類する。前者には資本主義に先行してブルジョワを育てた封建制があったのに対し、後者にはない。日本と西欧は、江戸時代に鎖国するまでは、似たような時期に似たような経済を発展させ、海外に進出していた。
 第1地域では動乱をへて封建制が成立するが、第2地域はいくつもの巨大帝国ができては壊れる繰り返しだった。
 なぜ第1と第2の間でこうした違いができたか。
 第2地域を横断する乾燥地帯では昔から、すさまじい暴力の集団が現れ、文明に打撃を加えた。さらに、乾燥地帯をめぐる文明社会そのもののなかからも猛烈な暴力が発生するに至る。第2地域の歴史は破壊と制服の歴史であり、暴力に対していつも身構えていなければならなかった。そういった状況では内部矛盾がたまって革命的なことが起きるまで成熟するができなかった。
 逆に第1地域は、「端っこ」であり、中央アジア的な暴力が及ばなかった。いよいよそれがやって来た時には、対抗できる実力の蓄積ができていた。元寇がその例だ。いわば温室育ちだった。
 第1地域は発展が自立的に順序よく進行し、第2地域では歴史の変遷は共同体外部からの力で動かされている。

−−−−−−−−−−−−−覚え書き−−−−−−−−−−−−−−−
 ▽封建制では長子相続制。中国やイスラム諸国は、はじめから分割や均等相続だった。そのかわり、第1地域の封建家族では家の重圧を保持したためにそれ以外の血縁集団を解消してしまったが、第2地域では、超家族的な集団が見いだされる。族外婚的姓氏制が機能している。
 ▽革命による国家統一は、中央政府官僚による直接支配を確立した。国民国家として列強の競り合いのなかで地位を確保するには不可欠だった。資本の独占的集中と裏表の関係だった。いま日本や西欧は権力と富の集中がすすみすぎた。いまは分散による能率化をはかるべき(1956年にこんな発想をしていたなんて……)  

■鳥羽博道「想うことが思うようになる努力−ドトールコーヒー成功の原理・原則」
2001/4/16 プレジデント社

 自慢たらたらの精神論が鼻につく。ドトールのことを取材したいから読んだが、一般的には読む価値はない。
 以下、単なる覚え書き。
 ▽かつては純粋にコーヒーを楽しむ喫茶は少なく、美人喫茶、同伴喫茶、ジャズ喫茶、名曲喫茶などが誕生した。ダーティなイメージだった。
 ▽80年にドトールコヒーショップ開業。150円コーヒー店誕生。
 ▽支払った金額に対する価値を高める努力を怠ってきた喫茶店、コーヒー豆の卸だけを専門にしてきた企業は年々衰退していくばかり。喫茶店数はピークの17万から7,8万軒に激減した。
 ▽チボーが上陸し、吉祥寺に120円コーヒーの店を作った。ドトール潰しだ。ビールメーカーがフランスのセボールと組み、大手スーパーがショップを開いた。「コーヒー戦争」と呼ばれた。が、大手企業組はことごとく撤退した。
 ▽規制緩和をきっかけに、ガソリンスタンドにドトールの店の併設をはじめた。
 ▽91年にハワイに農園「マウカメドウズ・オーシャン」、95年に「マウカメドウズ・マウンテン」、翌年にハワイアン風のコーヒーショップを池袋に。98年に銀座に「ル・カフェ・ドトール」
 ▽価格設定は、コスト計算という企業サイドからのアプローチではなく、消費者サイドあkらのアプローチであるべき。「いくらなら買ってくれるか」というところから価格設定して、あとから売り上げを高めてコストダウンをはかり利益率を高める。
 ▽14カ国から36種類の豆を輸入。
 ▽熱風焙煎ではなく直火焙煎の大型の焙煎機を開発した。
 ▽ ハワイ農園に下請けで焙煎をしてくれる80歳すぎの女性がいる。この人の焙煎したコーヒーは格別。

■井形慶子「古くて豊かなイギリスの家 便利で貧しい日本の家」 2001/4/28

 古い家を買って、大工工具を引っ張り出してあちこち補修する。家を自分たちでつくりあげていく。家が消費の対象ではなく創造の対象であるというのはいいなあと思った。
 ありきたりのマンションを買って、既製品の家具を買って……という日本の余裕のなさ。モノ作りができる暮らしの余裕はほしいな。
 ただ、本としてはつまらなかった。「イギリスはよくて日本はダメ」というステレオタイプな見方だけ。なんでも欧米を理想化するパターンは、どうにかしてくんないかなあ。福祉関係の報道にもこのパターンが多いけど。
 イギリスの家のこの部分がすばらしい……と具体的に書くのはいいけど、家もいい、文化もいい、メシはまずいけどそれもいい……というのはどうかしてるよ。日本のひどさはいくらでも批判すべきだけど、冷静な判断はしてほしいなあ。欧州の理想化はアジアやアフリカの蔑視につながらないだろうか。

■林望「書斎の造り方」 光文社カッパブックス 2001/4

 「書斎なんかあっても倉庫になるだけ」などとよく言われるけど、書斎の造り方の本って、意外に見つからない。インテリア紹介や有名人の自慢話ではなく、どんな形にしたら利用しやすい空間ができるのか、具体的に書いてある本がほしかった。この本も、期待したほど具体的ではなく、それほど役立つわけではないが、ほかに比べれば参考になるところもあった。
 ▽キーボードとディスプレーの間にノートや資料を置く空間を作る。そのためにはディスプレーはコーナーに置き、キーボード台を調整できるオフィス机を使う。
 ▽書斎は北側がよい。
 ▽アームのついたフロアスタンドで斜め後ろ左側から照らすように。
 ▽壁を板壁にしてクリップボードに
 ▽スチール書棚が棚板が動かしやすくて合理的。
 ▽書棚の一番下は、使いにくい。大型図録の類以外は、ふだんあまり見ないものを置く。
 ▽マンガや週刊誌などの方が、名作の本よりも後で価値が出てきたりする。