九重の厳冬温泉記A

2003年1月28日
法華院の道はるか

 朝起きると、青空がのぞいている。
 朝風呂をあびたあと朝食。自家製切り干し大根、山菜、干しシイタケ出汁の味噌汁、生卵、漬物、コイの甘露煮。デザートはゆずのママレード。
 「きょうは大雪になるっていってましたよ」と奥さん。晴天の夢はあっという間に消えた。レイザルも「天気悪いようだったらやめようよ」とびびってる。
 とりあえず、長者原のビジターセンターへ。10時の開館まで、アイゼンをはく練習をした。
 「道はわかりやすいですか」と尋ねるとセンターのおっちゃんは「大丈夫だよ。あの鞍部が雨ケ池。右側の三俣山の裏側くらいが法華院温泉だ」。
 それをきいてレイザルも落ち着き、10時すぎに出発する。自然観察路の木道を経て川沿いの入山届けのポストに書き込んで、いよいよ登山だ。
 路面が凍りつく個所が少しずつ増え、途中でアイゼンをはく。1時間半で鞍部のちょっと下と思われる岩場に到達した。
 右側の斜面にあるコース表示のビニールテープをたどっていくと、やけに細い道になる。ミヤマキリシマの灌木をくぐり、ぱちぱちと顔を打つ枝をはらって前進する。「これで九州自然歩道かいな」といぶかしみながら歩いていくと、凍てついた池に出た。「雨ケ池やな、間違ってなかった」と、ほっとする。
 目の前の三俣山はごま塩のように木々に雪がこびりついている。凍てついた池の畔の枯れた茅?がびゅーびゅーと音をたてて揺れる。凍った池の上に粉雪がくるくると舞う。
 コース表示のテープをたどっていくと、南南東に向かうはずが次第に西よりに道がずれていく。かるーい下りのはずが明らかな登りになるのに及んで間違いを確信した。三俣山の左側斜面をまくはずなのに、真っ正面から登る道に入っていた。
 レイザルはすっかりお冠。半分泣き出しそうになって、「もぉ、行ってみよ、って言うからきたのに。いやだよこんな間違えて!」。ここで、「たかだか10分のロスやん、たいしたことないって」などと言ってしまったら火に油を注ぐのは目に見えている。
 池までもどるが、どうもはっきりした道がない。「えー、またあの枝だらけの細い道を歩くのぉ」というブーイングを受け流して灌木の道をくだり、さっきの岩場に到着する。テープの目印に惑わされず、素直にまっすぐ岩場を登れば、3分で本物の「雨ケ池」の峠に出たのだった。尾瀬のような木道がある「自然歩道」だ。
 三俣山の麓をぐるりとまきながらだらだらくだると、眼下に坊ガツルの広い草原があらわれた。平坦になってアイゼンをはずした。
 途中おっさん2人組とすれちがう。法華院に泊まり、大船山にのぼってきたという。「たぶん客はあなたたちだけですよ」
 2時すぎ、山荘風の建物やバンガローが見えてきた。「法華院温泉山荘」は、2階建ての木造建築が2棟ほど。標高は1303メートル。
 受付で「ごめんください」と叫ぶと、ひげのおにいさん、というか40歳くらいの人が現れた。「登りはじめるときに電話いただけましたか?」。それは聞いてなかった。「遭難したりしないように事前に連絡してください」。なるほどね。
 シーズン中は250人が泊まり、食事は3交代になるが、きょうは僕らだけ。
 部屋はきれいだが、石油ストーブをつけてもいっこうに暖まらない。一晩中、ゴジラのような白い蒸気を口から吹きだし続けた。
 天気予報は「昨日はあたたかったが、今日はマイナス6度、あすはおそらく10度以下になる」。
 窓の外は粉雪が竜巻のようにうずまき、屋根の上の雪が吹き飛ばされ、白い幕を形作る。凍り付いた窓をこじあけると、屋根からはツララがさがっていた。【つづく】


長者原から出発。まだ雪は少なかった

 


迷って出会った池から見た三俣山

 


法華院温泉の部屋から

この日の旅行費(2人分)

山小屋     18000円
(1泊2食と弁当)
カップヌードル×2 440円 
ビール2本    1200円
ワンカップ     400円
−−−−−−−−−−−−
計       20040円