安心院へA

2003年11月

町めぐり

 鏝絵(こてえ)のある本町通りを案内してもらう。伊豆の松崎町の左官・長八翁の鏝絵や、愛媛の内子町の鏝絵の店を訪ねたことがあるが、安心院は町内各地に明治時代からの鏝絵がある。「院」がつく地名は米所や荘園だったところが多い。水が豊富で実り豊かな村だからこれだけの鏝絵ができたのだろう。
 火事がなにより怖かったから、ほとんどの鏝絵には波や川など水に関する絵柄が入っている。七福神や竜や虎の絵柄があるが、虎の縞模様はない。これは虎の実物を見たことがなかったからという。
 本町通商店街は静まりかえっている。古い家屋を改装して活用すれば、内子のような町並みを整備できそうなのだが、その資金がないため1軒また1軒と古い家が取り壊され、更地が目立ちはじめている。鏝絵目当ての観光客は来るのにもったいない。「わたし、ここで甘酒屋やろうかな。どぶろくもええなあ。パン屋なんかもはやるんとちゃうか」。レイザルは早くも無責任な想像をふくらませている。
 夕食は、スッポンの刺身と鍋、放し飼いの地鳥の刺身、モツ煮つけ。ツガニを丸ごとミキサーでくだいた出汁でつくった味噌汁。どじょうの天ぷら。野菜はすべて手作りで無農薬。腹がふくれて、最後のスッポン雑炊に行きつけなかったのが返す返すも残念だった。
 スッポン効果だろうか、夜中に顔がカッカとあつくなってきた。翌朝になるとおさまり、顔がてらてらしていた。週1度はスッポンを食べるという叶姉妹の気分がちょっとわかった。
 朝から上鶴さん父娘が町内を案内してくれた。
 山の斜面には、鎌倉か室町時代の磨崖仏や横穴式の集合墓「百穴」がある。戦争中は防空壕とされた。焼酎の「いいちこ」の会社が経営するワイナリーは、自家製ブランデー(2800円)もあり、試飲コーナーが楽しい。
 米神山の登山口にある「佐田京石」は、高さ2メートル以上ある棒状の岩が地面に突き刺さったように林立している。ストーンサークルの一種という説明ががあるが、古代の磐座信仰の一種だろう。
 佐田神社には反射炉の跡がある。この地域の有力な一族が、熊本や宮崎まで隠密を派遣して情報を集め1853年に造って大砲を製造したという。大分県初の溶鉱炉が、今はさびれた神社の境内になっているのがおもしろい。神社の本堂を囲う壁は反射炉の煉瓦を再利用したため、表面が鉄に覆われ黒光りしている。
 昼食はスッポンのうどん。コラーゲンたっぷりで、「私らも叶姉妹やなあ」とレイザルがやけに気に入っていた。 【つづく】

町の一角に小学生が作った鏝絵が
町の一角に小学生の作った鏝絵が

 


スッポン鍋、甲羅がコラーゲンのかたまり




反射炉の煉瓦を使った壁。鉄によって黒光り

 

 


ストーンサークルか?