朝、宿のおばちゃんがバナナとコーヒーをもってきてくれた。7時に宿を出る。しばらくは国道56号を歩いて、自転車通学の中高生らとすれちがう。農家の軒先からは朝餉の煙がたちのぼっている。
30分ほど歩いて、左に「遍路道」という小さな札をを見つけた。小道を左に折れると、ウグイスやカエルの鳴き声がひびき、柿の葉は黄緑色に萌えている。「鍋島」という墓碑がいくつもある。「武士みたいや」と言うと、
「レイザル食わねば文句言う」
「レイザル食わねど高いびき。食わないとふてくされて高いびきをかいて寝るってこった」。レイザルは朝から調子がいい。
「美化センター」の正門にでた。汚物の焼却場が「美化センター」はまだいいけど、ペット虐殺工場が「動物愛護センター」。侵略行為が「平和維持」となると…いやはや。
ゴミ焼却場の敷地に入って、ぐるりと右にまわって、杉木立の山道へ。「片坂遍路道」だ。
くだっていくと、片坂第1トンネルの上を経て第1と第2トンネルの間にでる。すぐに車道から離れて遍路道を下る。
「ここはほんま人がおらんな。ゴールデンウイークやから、香川のうどん屋さん、はやってるやろな」
「せやな」と生返事
「車で走って食ってまた食ってなんてアカンな、太るで」。経験談やな。
視界がぱっと明るくなり、国道や谷間の田んぼが目の前に開ける。減反のせいか、段々の田んぼが2,3枚おきに雑草が茂っている。9時前、国道沿いの「西尾自動車」に出た。
国道端に休憩場の山水でのどをうるおし、アンパンを半分ずつ食べる。
まもなく、「四国の道」の看板に従って、小道に入った。「橘川」という集落だろうか、標高が下がってきたためか、田植えが真っ盛りで、カエルが合唱している。
ウスバカゲロウのような虫があっちにふわふわこっちにパタパタ。飛ぶ様子が不安定で間が抜けていて、「うすバカ下郎」って感じだ。
藍色の菖蒲の花が点在する集落があった。「子供の日」なんやな。10時15分、荷稲の八坂神社をすぎて、そのまま田んぼのなかの道を進もうとしたら、農作業中のおじさんが「工事中で行き止まりじゃ」と言う。仕方ないから国道に出る。
15分ほどで、「四国の道」にもどり、鉄道の線路わきで、メロンパンを半分ずつたべてお茶を飲む。「わー、指パンパンやあ。指輪抜けへん!」とレイザル。歩くと手足の先がふくらむのだ。
緑の川沿いを歩く。護岸工事されていないから、竹や木々が枝を水面にたれている。蛇行する川の様子はなんともいえず懐かしい。
11時40分、伊与喜天満宮に到着する。谷が広がり、おだやかな田園風景だ。駅のベンチでマメ防止テープをはりかえた。
13時、バイパスを歩いてJR佐賀駅の裏を通過する。「日本1のカツオ船団の町」という看板。その隣りが町役場で、鯉のぼりではなくカツオののぼりがはためいている。「のぼりがつお」とでも言うのだろうか。
「横浜トンネル」を抜けると左手からの旧道と合流する。港を外洋の大波から守るように、こんもりした鹿島が浮かんでいる。愛媛県北条市の鹿島に似ている。なぜお椀を伏せたような島が鹿島と名付けられるのだろうか。湾口のこの島が、太平洋の荒波を阻むから、佐賀港は昔からの良港なのだろう。
13時53分、テトラと岩場の海岸がつづく白浜という集落で休憩をとる。
「アタシ、けっこうがんばってるやろ」とレイザル。
「靴(13000円)を買ってあげた効果か?」
「『海坊主』効果や」(料理がおいしい民宿)
なーるほど。
14時30分、大方町に入ると、「ホエールウオッチング」の看板が目立ち始める。
リアス式の変化にとむ海岸を眺めながら国道を歩く。ところどころ、こいのぼりと大漁旗がはためいている。のぼりの先端に「海斗」の文字。子供の名前らしい。
15時50分、民宿「海坊主」着。コンクリートの建物で、完全な個室で、ペンション風。窓の外には太平洋が広がっている。
カツオたたき、小鯛?煮付け、アジ天ぷら、伊勢エビ、タケノコとグリーンピース、タコ酢の物……。
海坊主 2人で16800円(酒2合、ビール1本、刺し身を含む)
【つづく】