愛媛遍路・初夏60番横峰寺

2004年5月31日
飽食の寺

 横峰寺は八十八カ所最大の難所のひとつだという。そういう場所は悪天候のなか歩いてこそ意味がある。
  「雨の日でも真夏に歩くより涼しくてええやろ?」とレイザルを説得し、午前9時に松山を出る。
 コンビニで買った直径5センチほどのミニホットケーキで腹ごしらえ。小松町の大谷池のわき、松山自動車道の巨大な橋梁の真下に車を置いた。今にも雨がふりそうで、行く手の山には白い雲がたなびく。気温29度だった昨日ほどじゃないが、カッパのずぼんをはくと蒸し暑い。
 午前10時、出発。香園寺の奥の院をへて30分ほどで登山道に入る。杉林の急斜面のつづら折れにのぼっていると、雨がふりはじめた。午後からの降水確率は80%なのだ。
 往復16キロの山道は「最大の難所」というが、道に迷う怖れはないし、登山経験者にとっては気楽な散歩道にすぎない。が、レイザルにとっては、違う意味で難所だったようだ。
 まずは、30センチのミミズがあらわれた。「わーっ!」と飛び退き「蛇みたいやあ」と言って息を付く。
 次にはカニが足元を何匹もはいまわる。「川もないのになんでやねん。ふみつぶしちまいそうや」。 さらに体長15センチのヒキガエルがペッタンピッタンとまとわりつくと、「ウヒョー」といって白目をむいた。
 「まったく、なんちゅうとこやねん」と、びびってる。
 11時、尾根の上に出た。休憩用の東屋とベンチがあり、ホッとひと息つく。ありがたい施設だ。
 杉木立の黒い影が林立する霧の森をを歩くと、ときおり、ウグイスの声が霧の幕をつきやぶる。
 せっかく標高550メートルまでのぼったのに、一度100メートルほど下の鞍部まで下り、一気に300メートルを登り返した。
 午後12時20分、横峰山から1キロちょっとの距離の車道に出る。寺の参道には巨大な天然の杉の木が2本、3本。寺域だから伐採されずに育ったのだろう。
 本堂に着くと、雨脚がいっそう強まった。軒下のベンチにすわって握り飯とお茶をくらった。
  納経所の坊主は無愛想なオヤジ。「Sさんもよく来られるんですか」と尋ねると「うちの檀家ですから」とすまして言い放った。とりつく島もないというか、暖かみがないというか。
 納経料は300円、年間10万人の遍路がいたとしたら、それだけで3000万円の稼ぎだ。寺でも企業でも、恵まれすぎるといかんのかな。
 帰途は2時間15分ほどでおりた。
 高速道路わきにある「椿温泉こまつ」へ。瀬戸内海をながめる露天ぶろであたたまり、名物の豆乳うどんをすすりながら生ビールを流し込んだ。 【つづく】


登山道に入ったところ

 


ありがたい休憩所

 


杉木立の山道

 


本堂から