愛媛遍路・初夏59-61

2004年4月23日
ラブホと駝鳥

 前回ののどかな散策道から一転、現代の修行道になった。
 桜井駅に近い網敷天満神社に車を停めて、午前10時に歩き始めると、ひたすら2車線の車道。トラックが轟音と排ガスをたてて追い越していく。道端の草花だけがホッとさせてくれる。
 40分ほどで湯ノ浦温泉前の「道の駅」が見えてきた。
「腹減ったなあ。ここ、釜飯とかあんで」(レイザル)と言っていたが、100メートルほど先に「イーオン」という看板を見つけ、
「あっちの方がええなあ」と「道の駅」は素通りした(甘いぜ、と、オレはにんまり)。
 イーオンの看板に近づくと「直進29キロ」という文字。
「2.9キロちゃうの? それでも遠いと思ったのにー!」と早くもブーたれる。
 10分後、「Saty」の看板があった。
「やったー! 腹ごしらえできんで」と喜んだのもつかの間、 「ご来店ありがとうございました。お気をつけてお帰りください」
「エーッ! …ほんま店がないなあ。釜飯くっとくんだった。スーパー誘致の町づくりや」
 午前11時、「蛇越池」を通り過ぎて小さな峠をこえると東予市に入る。「カブトガニ」と「刑務所反対」の看板が目立つ。弓形の砂浜のその向こうには河原津の埋め立て地がある。農業用の干拓だったのに、塩分が多すぎて利用できず放置され、ここに刑務所を誘致しようとしているのだ。
 無用な埋め立てという税金の無駄遣いは論外だし大型施設建設の際は住民への説明は大事だが、「刑務所誘致反対」には「障害者施設反対」というイケンに通じるイヤな空気を感じる。
 手持ちぶさたになるとレイザルは「坂の上の雲」の話になる。
「20分に一度言って申し訳ないんだけどさあ。坂の上の雲の町づくりって……」
 。20分どころか5分に1度は「坂の上の雲」の話になる。無機質な車道を歩いていると、ついつい会話まで殺伐してくるのだ。
 11時45分、久々の店「そごうマート」。さらに「デイリーヤマザキあと1キロ」と「ローソン2.5キロ」という看板。さらにさらに左手に「手打ちうどん」が見えた。
「やったな。もう腹ぺこや」
ところがその店の名前が「海宴太(かいえんたい)」と知って顔色を変えた。 「あかん。鉄矢の顔が浮かんでしまう」。
 12時すぎ、100メートル先の「うどん浜」に入った。今日はじめての食事は、冷やしうどんと生ビール、いなりずし(計1800円)。
 196号をひたすら歩く。川沿いの堤防に「日光」「東京」「さぬき」というどきつい看板が並んでいる。殺風景な道を歩くと、殺風景なものばかりに目がいくらしい。ラブホテルだ。堤防の下に、日光は青、東京は朱色の原色の屋根のバラックが十数棟建っている。ある棟には「入室」の看板が掲げられ、ママチャリが1台置いてある。妙に生々しい。
「このへん農家だから、姑に遠慮して来るんちゃうか」とレイザルも相変わらずの想像力をめぐらしている。
 午後1時50分。正面にそびえる石鎚山に向かって歩く。山が近づいてくると空気がひきしまる感じがして気分がいい。
 と、ポニー牧場のように柵で囲まれた広場に、高さ2メートルほどの巨大な鳥が見えた。えっ、一瞬目を疑った。ダチョウが2羽、3羽、石鎚の山を背に悠々と歩いているのだ。アフリカのサファリちゃうねんで。
 柵のネットに近寄ると、駝鳥も寄ってきた。近くで見る駝鳥の顔はけっこう迫力がある。
  「駝鳥倶楽部」という看板があり、わきに鶏卵の自販機が並んでいる。不思議な施設だ。 【つづく】


芥子の花?

 


河原津

 


ラブホ

 


駝鳥の顔