上熊淵近くの登山道にとりつく。鳥居がくぐり急斜面をのぼる。
ところどころ、「登山口まで400メートル10分、山頂6750メートル4時間」といった看板がある。台風が過ぎた直後のため、あちこちで水が流れている。カエルやウグイスやセミがしきりになく。まもなく左手の急斜面にとりつき、つづらおれの道でしばらく汗をかくと、ゴーゴーという音がひびいた。頭上を風が吹き抜ける。尾根が近い証拠だ。木々の間だから青空がのぞき、10時35分、尾根に出た。
木々の間の空間が広がり、明るいブナの森の散歩道だ。標高は1400メートルを超えている。林床はクマザサが覆っている。
ふと気づくと、東方に筒上と岩黒山が見えた。岩黒はその麓に2棟の宿舎があるからすぐわかった。岩黒と筒上の間には丸滝小屋の屋根が光っている。
筒上の下の山腹をスカイラインが斜めに横切っている。昔はこの道路の下は土砂が崩落し、茶色い地肌を見せていたというが、今は森に覆われている。あれほどの破壊でも癒してしまう自然の力はすごい。時折、スカイラインから車やバイクの音が響いてくる。
11時、北側にはじめて石鎚山の頂上が見えた。岩黒と筒上が見えたときもうれしかったが、石鎚の岩峰を木の枝の間に見たときは思わずオーッと声をあげてしまった。スカイラインを車で走っても石鎚山は見えるが、この感動はない。
行く手には石鎚から西ノ冠岳をへて二ノ森、堂ケ森へとつづくクマザサのやわらかな稜線が望める。クマザサの絨毯を斜めに切って登山道は山頂へとのぼっている。
【つづく】