大雪の山上の湯 3

2001年7月18日

偶然の出会い

 旭岳の中腹から続く大きな雪渓をいくつか横切る。雪から出てきたばかりの水は冷やっこい。
 姿見の池近辺では盛期をすぎていたキバナシャクナゲが、標高が100メートルほど高い裾合平周辺では満開だ。
 午前9時、裾合の分岐に着く。目の前にはピラミッド型の大塚。高山植物が咲き乱れる箱庭のような原っぱだ。積んであるケルンと広大で涼やかでそれでいてちょっと寂しい高山の雰囲気は、チベットの5000メートルの峠に似ている。薄緑のウラジロナナカマドの葉が風にそよぐと、汗がすうっとひいて心地よい。
 満開のシャクナゲとチングルマの大群落と、紫の花びらと中心部がオレンジのエゾコザクラ。緑の絨毯と色とりどり花の組み合わせはまさに「お花畑」だ。
 眼前の雪渓を横切って、カップルが近づいてきた。「こんにちは」と声をかけると女性が驚いて叫んだ。
「えーっ。なんでこんなところに!。なんや臭いと思ったわぁ」
 この毒舌を聞けばだれだかすぐわかる。ちょっと前まで職場でバイトをしていたTちゃんとその旦那だ。黒岳石室に昨夜泊まり、北鎮岳を経由してきたという。日本は狭い。
 ネパールで大学の同級生に会ったり、19歳のときにフィリピンで出会ったカメラマンに内戦中のニカラグアで4年後に会ったりしてるから、きっと世界も狭いんだろうな。
 9時50分、花畑がおわり、谷筋の登り道に入るころ、卵の腐ったようなにおいが流れてきた。
  川には雪庇がはりだし、岩の上の草花が硫黄の煙のせいで真っ赤になって枯れている。
 谷川沿いにはヤチブキ(エゾノリュウキンカ)が黄色い花を咲かせている。このフキはおいしいらしい。
 水がところどころ白くにごり、鉄分で真っ赤になった岩が現れる。
  「あった」。同行したKおじさんが叫んだ。
 午前10時、目的の中岳温泉に到着した。14,5年前に来たときは、濃霧のなか、人っ子一人いなかった。大雨の直後だったせいか、お湯もぬるくて入浴どころじゃなかった。
 きょうは、夫婦と女性の3人の先客がいる。男性は素っ裸。女性2人は足だけ湯につけている。【つづく】

大塚を望む裾合平はキバナシャクナゲが満開

 

ガンコウラン?の咲く高原をゆく

 

雪渓から流れる渓流沿いに咲くヤチブキ