大雪の山上の湯 5

2001年7月18日

旭岳へ

 午前11時50分、次第に雲が出てきて旭岳の山頂が隠れた。せっかくだから大雪山の屋根であるお鉢平を目指す。
 急坂の岩場を1歩1歩のぼと、次第に植物の背丈が低くなり、岩にへばりつくように小さな花が散らばっている。
 上からTシャツにGパン姿のカップルが降りてきた。リュックサックも小さくて、カッパも入っていないだろう。軽やかでハイジとペーターのようでほほ笑ましいけど、雨でも降ったら遭難するな。
 12時25分。中岳分岐に着く。霧と雲に覆われ、御鉢平は見えない。霧の微粒子がひんやりとして気持ちがよい。たまに霧が切れて、北鎮岳や噴煙をあげる御鉢平の有毒温泉が姿をあらわす。こういう雄大な山は本州にはない。しかも、いったん稜線に上がればアップダウンがあまりないから歩きやすい。
  人がいないときを見計らってケーナを吹く。なのに吹き始めたときに限って霧のなかからカウベルの音が響き、登山者とすれちがう。「熊寄せの笛ですか」とSさん。
 12時55分、間宮岳。霧に覆われて気温は15度。霧の粒子が音を吸い込むせいか、風や鳥や草の音も響かない。耳の奥から音を吸い取られるようにツーンする。反響音がないと、宇宙遊泳をしているような孤独感に襲われ、自分の実在さえがあやふやになるような気がする。男性登山者がお菓子をバリバリかじる音だけがやけに目立つ。
 岩にへばりつく高山植物の写真をいくつか撮った。コンタックスT2しか持ってこず、接写できないのがちょっと残念だ。
 13時10分、裏旭のキャンプ指定地を通過。45分、旭岳斜面の巨大な雪渓の下の端に到着する。雪渓の上をザアザアと音をたてて流れるせせらぎがエメラルド色に輝いている。エキノコックスは怖いけれど、思わず口にした。  【つづく】

霧の間宮岳にて。この植物の名前もわからん

間宮岳から旭岳に向かう途中。イワヒゲか…