白い花の香 みつる島@

1999年5月

 

昔ながらの「瀬戸内の島」を手軽に味わえる。
ため池があって、ミカンが生い茂って、
観光地らしいものはなにもなくて。
半日のんびりして、道後温泉であったまって、
居酒屋でおいしい魚を食べたらいかが?

【2003年11月の記録はこちら】
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝、アブに導かれ

 早朝、巨大なアブが羽音をひびかせている。うっとおしいけど、眠たい響き。
 港をあがって、細い道を山のほうへ折れる。
 近寄るアブにブーンとタオルをふるったら、つがいが2匹、じゃれあいながら飛んでいった。と思ったら1匹だけ俺をそばをくっついて離れない。仲間はずれなのか、監視なのか。
 やたら甘い。鼻の奥が甘い。最初はアヤメ、それからツツジ、柑橘類の畑に入ると白いミカンの花の群落…。懐かしいな、と思う。別に生まれ育ったわけじゃない。歌だ。
♪ミカンの花が咲いている♪
 これ、ほんとにミカンだよな。疑問に思ってちょっと葉っぱを拝借して、指でつぶしてにおいをかぐ。間違いない。
 パンという炸裂音。猟銃だろうか。
 まだ耳元でブーンとうなっている。合間にウグイス。
 ミカン畑をつらつらのぼって、のんびりくだる。道端にはソラマメ、それからインゲンの花だ。眼下に狭い砂浜があり、海は春独特のぬめりがある。ゲル状に固まり、さわったらプニュとへこむんじゃないか。
 ミカン畑に敷かれた朽ちかけた古畳の下から、アオダイショウ(たぶん)がシャラシャラと音を立てて出てきた。フジの紫の花がすだれのよう。熱帯のブーゲンビリアさながらだ。
 アブはタオルをふると離れ、5秒後にもどってきて、2メートルほどの距離をおいてまた浮かぶ。その繰り返し。
 つがいがもどってきた。「なんだこの人間は。どんと座って、へんな機械をいじりやがって。俺たちのデートのじゃまするなよ」

【つづく】