三陸まで見えた
午前9時40分に頂上にたどりついた。北西に単独峰の岩手山がうっすらと浮かび、西南には花巻方面の盆地が見える。南正面の緑の絨毯のようななだらかな山は薬師岳(1644メートル)だ。避難小屋はきれいに整備されている。
グリーンティーを水で溶かして飲んで、ようやくサルが口を開いた。
「登りながら考えてたのは温泉のことや。それから、ヒルトンのフェイシャルエステやな。紫外線にやられたし、そのくらいご褒美あってもええやろ」
「もっとまともな感想はないんか?」
「山に登るおじさんは紳士的や。ゴルフ場にでっかい車で乗り付けるバブリーおじさんと比べるとよくわかるわ。山を崩した場所を歩いて運動した気になって、宴会してコンパニオン呼んだりして、センス悪いやん。その点、山のおじさんは、自分の足で歩いて食べ物も最低限で楽しんでてシンプルや。山のおばさんはシンプルで上品やけど色気はないから、なりたいと思わないけどな」
いったい何を見て山に登ってるんだろ。
40分ほどのんびりしてから腰を上げる。
はじめの10分は稜線上のゆるやかな小道だ。
巡視員のおじさんとすれ違う。毎日登っているという。
「きょうは(三陸の)宮古の方まで見えるべ。最高の天気だ」
「ゴミがなくてきれいですね」
「いんやいんや昔はゴミが多がっだ」
東北弁はなんとなく心をなごませてくれる。 【つづく】