ニホンのええ下界 日生B

ボヘミアン上陸

岡山・日生の鹿久居島 1999年7月

弥生の宗教団体?

 「これ弥生時代の服やで。着なあかんらしいで」とだれかがいう。白くて上からかぶるタイプの、オウム服みたいなやつだ。
「えーっ、いやや。そんなん絶対写真に残さんといてな」(サル)
「じゃあ、その部分は秘密のアルバムにしとこ」
「もっと危ない。1枚だけ残して、ポロリと見られるくらいなら、いっぱいあった方がましや」
 茅葺き屋根の高床式住居2棟と竪穴式住居1つが僕らの今晩の宿だ。茅葺き屋根の高床式は、弥生とは名ばかり。きれいな板張りの床で、単身マンションタイプの風呂場と、ステンレスの台所、さらには食器乾燥機まで装備されている。囲炉裏はなんとキャスター付き。部屋中どこでも移動可能だ。
「うちにもないもの、弥生時代にあるんかいな」。サルがブツクサ言っている。
 着いた途端にタイチョー(セージ)が持ってきた巨大なアイスボックス2つをあけて、ビールを取り出す。計80本。圧倒的な存在感に豊かな気分になる。
 さっそくビールをあおる。それから恐る恐る寝間着の服をあける。
「ほんまや、オウムみたいや。危ないで」
「みんなホーリーネームで呼ぼか」(セージ)
「サルはアーチャリーやな」(俺)
「教祖は青い服で、ヒラは白や」(コージ)
「いややあ、気持ち悪い」(サル)
 はじめの数分はお互い牽制して誰も着なかったが、まもなくシモボケがズボンを脱いだ。
「なかなか、似合うで」
「オマエは、脳みそが筋肉やし、似合うな」。セージはさげすむ。
なのにそういったセージが次に着た。さらには茶髪のコヤマ。こうなると止まらない。 「ま、これ着たら自分の服が汚れへんしな」とか言いながら、ほとんどみんな着替えてしまった。ひとり着替えないコージに対して、
「オマエ、ヘンやで。一人だけおかしいんちゃう」(セージ)
「オマエ、そんなんじゃ社会でやっていけへんで」(シモボケ)
  オウムだってそれが大勢になれば「普通」になる。日本の戦前ナショナリズムはこうして形成されたのだろう。今の「会社人間」だって、生活を犠牲にしてまで会社に尽くす点で新興宗教とたいして変わらない。 【つづく】

空中浮遊の実験。ではない。酔っぱらってくたばっている図