午前4時半、夜の色を残す中空に半月が浮かんでいる。
JR新今宮駅南側の一角は、電車もまだ動いていないのに、自転車や徒歩のおっさんたちが行き交う。野球帽をかぶり、運動靴や地下足袋、つっかけをはき、足早に歩く。北京の天安門広場のようにワサワサしている。
「ゆうべは寒かったな」
「台風の影響で風が強くて、寒くて寝られへん」
「あんたは日本橋か?」----
ほとんどの人がアオカン(野宿)なのだ。
古びた鉄筋コンクリート作りの「あいりん総合センター」わきの道路に、手配師のバンが次々に横付けする。「○○建設」「○○株式会社3号車」などの文字が車体におどる。手配師が顔見知りの労働者に声をかけていく。
「兄さん(この会社で働くのは)はじめてか?」。 背後から50歳前後の男性の声がした。「はい」と答えると、
「ワシもはじめてや。声かけてみようと思ってな」
だが彼は、いつまでたっても手配師に近づこうとしない。「どうせダメやしな…、せやな…」とつぶやいてモジモジしている。そのうち、手配師は40歳代の元気のよい男を乗せて行ってしまった。
露店があちこちに開く。鍋や釜を売る古道具屋や古着屋、バナナを山盛りにしている店もある。飯屋からはみそ汁の匂いが漂う。
【つづく】