霧ヶ峰クロカンツアーA

2000年2月

八島湿原

 午前9時すぎ、スキーをはいて出発する。
 北アルプス、八ヶ岳、富士山、南アルプスと、ぐるり眺望に恵まれる。藍色の空は宇宙のよう。
 夏場は観光の車がぶっ飛ばすビーナスラインは静寂に包まれている。
 沢渡からは車は通行止め。ゲートを乗り越えさらに観音橋へ。地図によると、そこから谷筋の小径をちょっと脇にそれれば八島湿原に行けるはずだが、深い雪に埋もれている。吹き溜まりを腰まで埋まりながら、200メートルほどを突破する。スキーでズボリと踏みしめ、ラッセルして歩くのが楽しい。
 10分ほどで小屋に着く。2本のスキーの跡がついているだけの真っ白な雪原で、魔法瓶のお湯で粉末ホットレモンを溶かして飲む。
 ハイキングコースをたどると、眼下に八島湿原の雪原が広がる。急斜面を降りて、夏場は立ち入り禁止の湿原に足を踏み入れる。深い雪をクロカンのスキー板で歩いた跡を振り返ると2筋のトレイルができている。
 湿原を渡ったところで、板で雪を踏み固め、ツェルトを敷いて昼食をとる。
 チーズフォンデュと、フリーズドライのイタリアンパスタ。白い湯気をあげるチーズにフランスパンをつけ、ワインで流し込む。
 レイザルは「トイレ行く」と行って湿原方面に歩いていったが、 「お尻に雪がついて冷たい」と帰ってきた。
「あっちやったらええんちゃう?」と適当な方向を指さすと、そっちへ行って頑張ってきた。
「こんなんはじめての経験や。けっこう気持ちええなあ」とのこと。
 食べ終わってしばらく休憩し、寒くなってきて帰途につく。
 唐松林のわきの道の四輪駆動車の轍を滑りながら歩く。往路のような深雪もなく歩きやすいが、ちょっと物足りない。スノーシューの人やクロカンの人らとたまにすれ違う。
 帰りにスキー場で滑ってみたりして、3時半ごろ双葉屋に返却した。
 この日の宿泊は、蓼科のペンション「アルム」だった。 4人でログハウスのコテージを1つ。1階と屋根裏にベッドが置いてある。清潔で高級感もある。
 近所の温泉「石遊の湯」へ。露天風呂しかなく、空気は髪の毛を凍らすほどに冷たいのに、湯で全身があたたまった。
 夕食は、コース料理だ。自家製のハムから始まり、ベーコンのスープ、イワナのポワレ、スペアリブのハーブ煮込み、アイス、とつづく。奥さんが作っているという。ワインはイタリアのもの。
 オーナーは東京の勤めをやめて、土地400坪を買い、8000万円かけてペンションを建てた。食卓や椅子などの家具は自作、剥製の鹿も自分でしとめた。天井から無数につり下がるドライフラワーや壁面の押し花もしゃれている。
 「双葉屋にもクマの剥製や押し花もあったで。同じ剥製と押し花やのに随分雰囲気ちがうなあ」とレイザルが不思議そうな顔をしてる。
 それでも、双葉屋のおやじが好きなのだそうだ。
「宝くじあたったら、ここを買い取って双葉屋のオーナーが経営させんねん。剥製はクマに変わって、押し花はくすんで、同じイワナ料理でも塩焼きになって…ちょっとのようでずいぶん雰囲気かわるやろなあ」。 想像力だけはたくましい。
 夜、屋根裏部分のベッドに寝る。屋根にあいたガラス窓から北斗七星がのぞいていた。 【つづく】

日が落ちて不安になって急ぐレイザル

 

ペンションアルムはお勧め。

1泊2食で9000円から。

 

双葉屋は1泊2食8000円

食事はボリュームたっぷり

クロカンは初心者でもOK