出発して1時間、中国自動車道を走行中、1号車の助手席にふんぞり返るレイザルが種馬キュンの運転する2号車のオイワの携帯電話を鳴らした。ピロロロ。
「どこにおるんや?」
「え、あの、私、わかってないかもぉ…、あ、あったぁ。西宮名塩のショッピングセンターですぅ」
あんな山のなかにショッピングセンターがあったろうか。
「あっ、それってサービスエリアのまちがえか?」(レイザル)
「あ、そうです、そうですぅ」
「オイワってもしかして、あんたよりアホか?」(ボク)
「そうかもしれん。いつもアタシの相手してるゴローの気持ちわかるわ」。若干は自覚してるらしい。
後部座席では、美人ちゃんがキョージュの手を握って、キョージュはニヘラニヘラしている。思わず目を背けたレイザルはつぶやく。
「納得いかんわ。なんでコイツにこんなかわいい子がくっつくねん」
美人ちゃんがレイザルに声をかけた。
「あの、女優さんに似てると言われませんか?」
「え? だれだれ? 美人女優?」(レイザル)
「なわけやないやろ。泉ピン子か? それとも市原悦子?」(ボク)
「ちがいます。有名な、最初に『ヒ』がついて最後は『子』だったと思います」
「ヒミコか?」(ボク)
「ちがいます」
「うーん、日野富子!」
「ちがいます。もっと人気ある人です。最近大学に入りました」
「人気ある人かあ…、ヒッパリダコや!」(ボク)
「も、も、も、もしかして、ヒロスエのこと? ほ、ホンマ、冗談ちゃうんか?」(レイザル)
「そうです、それです」
「ドヒャー、美人ちゃん、ガイジンさんやから、みんな同じ顔に見えるんちゃうか? 白人の男を見ても、俺なんてダスティン・ホフマンだかチャップリンだか区別なんてつかへんもん」(ボク)
「やっぱりそうかなぁ…。高田馬場でも歩いたら若い子にもてへんかなあと思ったんやけどなあ」(レイザル)
途中2度の休憩をはさみ、搭乗者を交代する。八鹿から豊岡までの1本道がずらり渋滞し、予定より1時間ほど遅れて久美浜に近づく。
午後6時、日が暮れて、満月直前の大きな月が東の空から白い光を放っている。車を止め、窓をあけると、内海の久美浜湾は、鏡のように月を映し、トプンという水音とともにゆらゆらと光が揺れる。
久美浜湾の西側をグルリとまわって、湾口にかかる橋を渡る。「湊宮」という集落。民宿街である。冬はカニ、夏は海水浴客でにぎわうという。【つづく】