ツツジが咲き乱れる城の一角に、木造二階建ての小学校があった。
日曜日、子供たちのいない渡り廊下を歩くと木の香りがする。堀の向こうにそびえる石垣の向こうから渡ってくる風に、子供たちの絵が壁ではたはたと揺れている。。
低層だから、校舎と校舎の間の中庭にも朝から夕方までやわらかい陽が注ぐ。
「むっちゃ懐かしいわ。いまこんな校舎ないもんなあ」。ツレがつぶやいた。
僕の出身の小学校に木造校舎があったのは4年生までだった。南側に鉄筋コンクリート4階建ての新校舎が建ち、日陰で真っ暗になった「ボロ校舎」を嫌がり、モダンなビルのしかも1番上の教室に移りたがったものだ。
でも、掃除は新校舎よりも楽しかった。ビルの校舎の床はワックスをかけるとツルツルになってスケート遊びにはよいが、それだけだ。木造の床は、水拭きと乾拭きをするだけで、鮮やかさがよみがえり、たまにワックスをかけると重厚に黒光りする。掃除が大嫌いな僕でも、きれいだな、と息を呑むときがあった。
先日、当時の「新校舎」を15年ぶりに見たら、壁にひびが入り、白壁は茶色く変色していた。木造ならばいま一番油がのって味がある時期だろうに。
鉄筋のモダン建築がうれしくて仕方なかった当時の僕らは、高度成長時代の価値観にどっぷりと浸っていたのだろう。
この日は、篠山口の駅前でレンタサイクルを借りた。篠山城までは、早苗がそよぐ水田を突っ切る道を30分ほどだ。天守閣跡に登ろうと思ったら「大書院」復元の工事をしていて立入禁止。いやな予感がした。天守閣復元やら「城祭り」やらがあるたびに、鬱蒼と茂った巨木が切り倒され、型どおりの「公園」が整備される。静岡の駿府城はまさにそう。豊後竹田の岡城もその道を歩みつつある。ここはそうでないことを祈りたい。
【つづく】