青森・白神歩き@

2000年7月8-11

 

 大阪駅で明石名物の「ひっぱり蛸飯」(980円)を買い込んで、寝台特急「日本海」に乗り込む。僕らの子供のころあこがれだったブルートレインだ。2段ベッドのB寝台、食堂車もなく、うらぶれた雰囲気が郷愁を誘う。「寝台車の棚とかハンガーとか、コンパクトで、押し入れで寝てうれしかった気分や。きっと海軍の船もこういうふうにできてんだろな」とレイザルは興奮気味だ。

 

津軽峠近くにあるブナ「マザー・ツリー」

 

 

 

ほおかむりの村

  国鉄の分割で、JRのいくつかの本社を縦断する列車は、「我が社の列車」という意識がないがために寂れてきた、とレールウェーライターの種村直樹さんが言っていた。その典型は東京から九州に向かうかつての花形ブルートレイン。その逆は「北斗星」などの豪華寝台列車だそうだ。
  琵琶湖の西岸を北上するにつれどんよりと暗くなる。敦賀の駅でカニ飯弁当を買うころには雨粒が落ちてきた。空気がしっとりして気持ちよい。だがせっかくのカニ飯だけど、「ひっぱり蛸飯」の方がうまかった。
 翌朝、起きたら、延々と続く松林の向こうに日本海が見えた。いよいよ東北入りだ。
 午前7時すぎ、弘前で降りてまず驚いたのは、駅の売店に山積みになった南部せんべいだ。「せんべい」と銘打って売っている。コンビニでも並んでいる。ここではこれが普通の「せんべい」なのだ。鹿児島では薩摩芋のことを薩摩芋と呼ばないのと同じである。
 武家屋敷のならぶ風致地区を歩き、弘前城に登る。小諸城のような動物園などもなく、遊園地もない。堀に浮かぶホテイアオイの緑が鮮やかだ。春は桜が城内一面に咲き乱れるという。
 「岩木山の裏に隠し田があったから津軽藩は豊かだったんだ。青森(市)なんてどうしよもね。今でも流行は弘前からだ。ビブレもサティもあるがらな。新宿と同時にファッションなんかもはやるんだ。その点、青森はダメだ」。タクシー運転手は言った。
  歴史は長いけど沈滞しきった古都の人々が、新興都市に対して抱く優越感と劣等感。東京に対する関西人の感覚に似ている。
 午後2時、バスに乗り、白神山地の玄関口である西目屋村へ。村の中心部で降りる。
 日曜だから役場は閉まっている。ほおかむりをしたおばさんだけが目立つ。世界遺産の記念館はブナの生態系をわかりやすく展示している。白神の四季の写真も美しい。が、それ以外には何もない。リンゴ畑が点在する死んだように静かな村である。
 村が建てたという「白神館」(ホテル)は、外観のセンスは悪いが、中身はきれい。食事もおいしい。水がいいせいかご飯がとくにうまかった。

【つづく】

 
日記のページ 穴場の旅 haiti peru salvador guatemala nicaragua mail top