桟橋を降りると青空が顔をのぞかせる。翡翠かエメラルドのような色の海は、底まで透き通っている。
集落の中心部に近づくと、石垣に 囲まれた赤瓦の家並が姿をあらわす。小道はサンゴの白い砂。いきなり東南アジアの村にまぎれこんだよう。
集落は中国・雲南のシーサンパンナを思わせる。昔の沖縄はすべてがこんな風景だったのだろう。海洋民族のムラ。柳田国男が「海上の道」をしるす気持ちがわかるような気がする。
レンタサイクル屋のおばさんは「自転車は自分の番号を覚えてカギをかけないでください。絶対盗まれませんから」。のどかでいいなあ。
家々の石垣が連なる白砂の道をのんびり走る。家の屋根瓦にはシーサーが鎮座する。
赤いハイビスカス、紫色のブーゲンビリア、黄色い大輪のユウナ、風に揺れると 海のような音がするデイゴ(花なし)の並木。集落中花だらけ。
1軒の家の前に止まると、「ちょっと見ていってあげて」とおばあさん。30歳くらいの東京出身の男性が、軒先に手作りのアクセサリーや版画を並べている。家の戸をすべて開
け放ちあずまやのようで、風が自由に吹き抜ける。
柱の台石がサンゴ、床も竹を組んだ上に畳を敷いただけ。屋根も泥で瓦を つけている。天井もないから広々している。トイレや台所は別棟だ。
「全部、こっちの材料で作りたい 。ここなら材料を取ってくるところから全部自分でできる。東京ではぜったいできない」と言う。
「島の人の家は、サッシでクーラーもつけてる。こんなボロ屋に住むのは外から来たもんだけですよ」。古い家は風が抜けるから、クーラーも扇風機も使っていない。新建材の家にはよく発生するダニとも無縁だ。ただ、1、2月の2カ月間だけは気温が18度まで下がり、大陸から強い風が吹くからちょっと寒い。隙間だらけで暖房が効かないからだ。
【つづく】