ビールとばあちゃんの遠野A

1999年8月20日

カッパじいさん

  自転車で3分ほどの常堅寺に行く途中、ホップの草をはじめてみた。竹の棒にまきついて、約3メートルの高さまで生い茂るツルのあちこちに実がなっている。
 常堅寺にはカッパの狛犬がいる。紫露草がみずみずしい。寺のわきの小道をたどり、田んぼのあぜ道を通り過ぎると「カッパ淵」に出る。
 小川がちょっと広がった淵のわき、風そよく木陰のベンチに、緑のジャージと白いシャツを着たカッパのようなおじいさんが座り、訪れる観光客に独特のうたうような高い声で呼びかけている。
「お兄さん、どこからぁー。お兄さん、柔道何段ですかぁ」
「やってませんよ」
「ぜったいにやってますぅー。お兄さんは5段ですぅー」
レイザルは「あ、旅館のポスターのおじいさんや」と言って声をかける。と、
「そうですぅー、おじいさんはヘンなおじいさんなのぉ」 「仕事はしてるの?」
「仕事はぜんぜんしておりませーん。ほらをふいておりますぅー」
(旅館のおばちゃんによると、「『カッパは昔見たことがある』って話すようにテレビの人から言われてそうしてる」と話していたらしい)
「何時から何時までここにいるの?」
「朝9時30分から夕方5時ごろまでここに座っておりますーぅ。あの家に住んでますぅ」と裏手の一軒家を指さす。
「そのベンチ、涼しくて特等席やね」(レイザル)
「そうですぅー、どうぞ座ってくださあいー」
レイザルが隣に座ると
「子供はいますかーぁ」
「まだ」
「子供作ってくださいー」
シャラシャラという川の音が聞こえ、風が頭上の木をササーッと揺らす。 足元には陶器でできたカッパの像。おじいさんは代々ここに住んでいる。安倍与市さん、自称99歳。遠野物語に安倍与右衛門という人が出てくるから、その子か孫なのだろう。ほんまにこの人がカッパに思えてくるから不思議だ。   【つづく】

 

 

何気ない丘だけど悲しい場所です