生命混沌 屋久島の山@

1997年8月25日

 

 日本で最も生命を実感できる山。だけど、ハイカーが増えて随分荒れてきたな。 そのぶん登山道も山小屋もきれいに整備されて、だれでも歩けるようになった。温泉も静かで最高やで。

 

 

 

 

 

 

 

花之江河から宮之浦岳へ

空港からバスで安房へ。乗り継ぎのバスに乗り遅れ、タクシーで淀川の登山口に着いたのは午後5時だった。徒歩40分の淀川小屋は、きれいに整備されている。

 午前5時半に小屋を出て、1時間ちょっとで日本最南端の高層湿原の花之江河につく。
 立ち枯れの木々の懐をミルクのような霧が流れ、はるか上層に一瞬、青空が顔をのぞかせる。
 プクプクチシャラシャラ……キンコココ、水の奏でる旋律に時折、鳥が合いの手を入れる。
 東の山の端の霧が、一瞬おどるようにきらめいた。
 立ち枯れの白い木々が点在する原っぱを抜け、生い茂るクマザサをかきわけ、シャツもズボンもびしょぬれだ。至るところシャクナゲだらけなのには驚かされる。
 ところどころ、木道がついている。濡れなくてすむだけありがたい。
 8時50分、宮之浦岳までの最後の水場に着く。絨毯のようにこけに覆われた岩の間から、清冽な水があふれている。
 やわらかな布団のようなクマザサの原っぱの上に、白い岩がボコリボコリと突きだす。宮之浦の前山の栗生岳の頂上は、岩でできた平たい帽子をかぶせたよう。岩のすき間には、小さなお堂が安置され、中年登山者の集合写真が飾られている。
 鹿児島の登山家のおじさんが
「見てみ」と指さす。岩の間に、紫のリンドウが風に揺れている。頭が垂れて重そうだ。
 9時35分、宮之浦岳の頂上についた。
 眼前には永田岳の岩峰。巨大な岩を積み重ねたあと、緑の牧草をふりまいたよう。いつの間にか雲が吹き払われた藍色の空に、半月が浮かんでいる。
 平石、坊主岩方面は、これから歩く道が緑の絨毯の上をのどかに曲がりくねっている。愛子岳や海に浮かぶ諏訪瀬の島々……、こんなに眺望がよいことはめったにないという。無数の巨岩がクマザサの海に浮かび、クマザサの原っぱを亜熱帯の濃緑の森が囲う。さらにそのまわりに大きく広がる海は、空との境界さえもあいまいに溶け合っている。
 双方向から登山客が次々に到着し、にぎやかになってきたころ、頂上を後にする。笹原を20分ほど泳ぎ永田岳方面への分岐点へ。上から見るとのどかそうだが、足元の段差が見えないつらい道だった。振り返ると、宮之浦岳はもうガスのなか。    つづく

  【つづく】

 

 

 

 

 

 

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