国道56号から左手の山道に入り、杉林のなかをつづらおれに走ること10分ほど。明るい斜面の集落がぽっかりと現れ、尾根近くまで積み重なる棚田を白やピンクの梅が彩っている。白梅、紅梅、八重、一重……と咲き乱れている。
梅祭りは3月初めの週末にあったが、今年は今がちょうど見ごろだ。畑のなかをぬうように梅見学のための散歩道があり、駐車場の近くには「ご自由にどうぞ」と杖が用意されている。山全体に甘いかおりがただよう。
昔は田と、トウモロコシやイモなどをつくる畑だったという。梅を植えるようになったのは戦後になってから。日当たりが悪いから米には向かない。でも梅ならば湿気が多い方が望ましい。地域のアイデアマンがそう判断して梅の木を植えたという。
出会ったおじいさんも田畑を作っていた棚田に梅を植え、一部に栗林にした。
「中山の栗はおいしい。畑田の栗タルトの栗はここから全部出してるんやけん」と誇らしげだ。
山奥のどんづまりの集落だ。
「ここにも平家の伝説はありますか」と尋ねると、
「伝説があるわけじゃないけど、わしらはそう思っとる」と答えた。
梅祭りは10年ほど前から催している。洗濯物や漬け物、トウキビを干した農家の庭先、畑のなか……と、人々の暮らしのなかをたどれるのが楽しい。
散歩の後は集会所前の特設売店へ。
中山の巻きずしは、山間だけあって、ゴボウやニンジン、かんぴょうといった野菜ばかりで酢飯は甘い。海産物が入ってないから最初は物足りないが、ヘルシーで何度食べても飽きがこない。
梅肉エキスを買った。大量の梅をしぼって果汁をとり、それを何時間も煮詰めて作る。ジャムの瓶1瓶で2000円。腹をこわしたときにはこれがよい。大手メーカーの作るエキスの半額だという。
帰途、伊予市の自然農法家、福岡正信さんの田んぼに寄った。黄色い菜の花が一面に咲いていた。周囲の田がまだ茶色い地肌をさらしているから、ここだけが天国のよう。
米麦連続栽培でこの時期は麦が生えていてもいいはずなのだけど、菜の花に隠れているためか見つからない。体調を崩して種もみをまけなかったのかなあ、とちょっと心配だ。
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